04. 金谷くんとスーパー
近所のスーパーじゃ、出会う確率が高い。
誰に?
それは簡単。クラスメイトに、だ。
なるべくクラスメイトに今の生活のことを知られたくないので、出来る限り遠くのスーパーへ向かう。別に疚しいことをしているわけではないのだけれど、何となく知られたくないだけなのだ。
スーパーのチラシを見ながら、私は何を購入するか決定する。朝のうちにすでにマークしているのでそれさえ購入出来ればいい。私がチラシを見ているのは、買おうとしているものはほんとうに安いものか? ということの確認と、ほかにコストパフォーマンスが良いものは無いか? ということについての最終確認だった。
「今日はもやしと豚肉が安いかな……。それじゃ、これとこれでおかずを作るか……」
そんなことを言いながらスーパーのカゴを取った。
――正確には取ろうとしたのだが、そのタイミングで、別の人間も手を差し伸べていた。おいおい、どうしてこんな偶然が被ってしまうんだ? と私は思って顔を上げたのだが――。
「……あれ、もしかして君は」
そこにいたのは金谷くんだった。
金谷くんは学生服に黒いエコバッグを肩にかけていた。
「な、なんで君がここに??」
私は思わずそう訊ねてしまったが、金谷くんは冷静を保ったまま答える。
「なんで、って……。僕の家はここから近いし、そしてこのスーパーは安いものを良く売っているからね。だから、だけど」
「成る程ね……。確かにこのスーパーは安いし、いっぱいの人が来ているものね」
「そういう君はどうして?」
「私もあなたと同じ理由だけれど? スーパーが安いから、という単純明快な理由で来てはいけないのかしら」
「別に来てはいけないことは無いけれど……」
金谷くんはカゴを取って、店内へと入っていく。
私もそれに合わせるようにカゴを取った。
◇◇◇
店内に入って、もやしと豚肉をゲット。何とか買うことができた。アクシデントは幾つかあったけれど……。まあ、想定内だろう。これくらいは。
私が買い物を終えたタイミングでちょうど金谷くんもレジを終えたところだった。金谷くんはエコバッグをパンパンに膨らませるほどの買い物を済ませていた。
そこまで大量の物を買い込んでいたのか? と私は思ったけれど、あまり詮索しないことにした。家庭事情は、誰にだってあるし。
「奇遇だねえ」
「そうね」
金谷くんはそう言って頷く。
私もそれにこたえる。
「……家ってここから近いの?」
「うーん、まあ、歩いて五分くらいかな。君は?」
「飯野マキよ」
「うん?」
「飯野、マキ。私の名前。覚えてね? 少しは、クラスメイトの名前くらい」
「飯野……マキさん。それじゃ、飯野さん。家って近いの?」
「そうでもないよ。ここから二十分くらい。しかも学校が家との距離の間くらいにあるから、実質遠回りなのよね、このスーパーに寄ると」
けれどそんな遠回りをしてでもこのスーパーで買い物をしないといけないのである。ここはあまりにも安い。安さには変えられないのだから。
「成る程ね。それでも買い物をしていきたいわけ、だ。……それじゃ、僕はここを左に曲がるから。それじゃ」
そう言ってスーパーの前を左に曲がっていく金谷くん。
私はそれを、手を振って答えた。
「それじゃ、また」
金谷くんも私の手を振ったことに答えて、手を振った。
そして私は金谷くんに背を向ける形で、スーパーを右に曲がった。
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