11. 金谷くんと節分2


 それから少しして。
 母が恵方巻を四本、お皿に乗せて持ってきた。
 正直それは多いでしょう、ってくらい大きな恵方巻だったけれど、母曰くそれなりに安かったらしいので、仕方ない。安さには勝つことができない。それは母に限らず、私だってそうだ。

「……えーと、今年の恵方は」
「南南東ですよ」

 即答する金谷くん。そこはさすがだ。
 それに合わせて方位磁石を出す母。さっき、調べておけばよかったのに。

「こっちですよ」

 すると金谷くんが即座にその方向を向いた。右手には地面と平行にしているスマートフォンがある。そういえば、スマートフォンには方位磁石のようなアプリケーションがあるって聞いたことがある。もしかして、それのことなのかな?

「あらあら、すごいわねえ。最近のスマートフォン? というのは。ほんとうはわたしもスマートフォンにしたいけれど、機械オンチだからねえ」
「そうなんですか? でも最近は簡単な操作ばかりになっていますから、簡単ですよ」

 そして、金谷くんは恵方巻をスタンバイ。
 それに合わせて雄太と私、母もスタンバイした。みんなで一緒に恵方を向いて食べる。それが我が家のルールだったからだ。

「……」
「……」
「……」
「美味しい!」
「あー、雄太、声出しちゃったかー」

 残念ながら雄太が失敗してしまった。
 私はギリギリセーフで食べきることができたけれど。まあ、食べきれば願いが叶うなんてはっきり言って迷信に過ぎないと思うけれど、こういうのは信じているのも案外いいものなのかもしれない。

「まあまあ、別にいいのでは? ようし、雄太。豆まきでもしようか!」

 炬燵の真ん中に置かれている升を取って、金谷くんは言った。

「うん! 豆まきしよう!」

 雄太もそれに合わせて立ち上がると、豆まきの升を持ち出した。


 ◇◇◇


 豆まきも終わると、雄太は炬燵の中ですうすう寝息を立て始めた。疲れたのだろう。ずっとはしゃいでいたことだし。

「……あ、もうこんな時間か」

 壁時計を見て、金谷くんは立ち上がった。

「ごめんね、こんな遅い時間まで」
「いいよ、こちらも美味しい恵方巻を食べることが出来たし」
「家ってここから遠かったっけ?」
「そんな遠くないよ。寧ろ歩いて行ける距離だし」

 とりあえず玄関まででも見送りしようと思い、金谷くんを追うように立ち上がった私。
 そして玄関で金谷くんは靴を履いて、踵を返した。

「それじゃ、また、学校で」
「うん。学校で」

 玄関のカギを開けて、金谷くんは外へ出ていった。
 私はただそれを見守るだけだった。






TOP