21. 金谷くんとホワイトデー


「ホワイトデー、か」

 優奈は、資料を整理しながらぽつりそんなことを呟いていた。

「あー、そういえば『あれ』って、ホワイトデーまでに返事出すんだったっけ?」

 私の言葉を聞いて、目を丸くする優奈。

「え? え? 私、口に出してた?」
「うん。思いっきり口に出てた」

 ミキも聞いていたからその話は覚えてる。だから笑いながら私たちの会話に参加してきた。

「柊木くんと、あれからどうなのよ」
「お? それもう聞いちゃう聞いちゃう?」
「……正直、駄目だと思ってる」

 優奈の言葉に、私たちは目を丸くする。

「……ってことは、返事来たの? それとも来てない?」
「来てないよ。見捨てられたのかな、って思ってる」
「聞いてみるのは?」
「聞ける訳ないじゃん」

 それもそうだ、と私は思った。

「マジか。まさか女の子からの告白を無視するなんて……」
「私もそんなことする人が居るなんて思わなかった。けれど、これが事実。これが運命。決められたことなんだな、って思うことにするよ。致し方無い、って思うことにするよ。そうでもないと、やってられないし」

 なんというか。
 優奈はそういうところ、さばさばしてるよね。

「ところで、マキはどうなの?」
「……え?」
「金谷くんのことだよー。あ、ややこしいから金谷兄と命名しておくか」

 ちなみに。
 今、生徒会室に金谷兄弟は居ない。
 先生から呼び出されて、職員室に居るはず、なのだ。

「……わ、私は何も告白とかしてないし」
「でも感情は抱いてるんじゃないのー?」
「…………そうなのかな」
「そうだよー。だって、マキ、金谷くんのこと話すときとっても楽しそうだし」

 そうだろうか。
 私はあまり、私のことを評価出来ていない節がある。
 だから、私は――。

「はー、いいよねえ。あんたたち二人は。浮いた話があって、さ。私なんてそんな話の一つや二つ転がってても良いだろうに、そんなこと無いんだからねえ」

 それは自分が何もしていないからでは無いのか? という突っ込みは今更野暮な気がした。
 結局、私は。
 何も金谷くんに関して、結論を出せていない。
 なら、どうする?
 そんなことを思ったとき――生徒会室の扉が開いて、そこから金谷兄弟が入ってきた。

「いやいや、あの先生にも困ったものだよ。まさか卒業式のプログラムが見つからないことを、僕たちがやってきたから、ということで言い訳にしてくるとは思っていなかった。はっきり言って、最悪の教師だな」
「……それ、先生の前で言わない方が良いからな?」

 金谷くんたちは、結局いつものやりとりをしている。
 私は、そこに入る隙は今のところ、あるだろうか?
 今のところ、その隙が見つかる様子は無い。今のところ、その様子に入る隙は見当たらない。
 だから、私は。
 結論を先送りにしているだけなのかもしれない。
 だったら、しっかりぶつけて、轟沈してしまった方が良いのかも。

「……飯野さん、何か僕の顔についてる?」

 それを聞いて、私ははっと目線をそらした。ずっと金谷くん(正確には、俊くんではなく明くんの方である)を見ていたのだった。はっきり言って、そんなこと指摘されたら恥ずかしいに決まっている。

「いや、何でも無いよ」

 だから、私は。
 また、結論を先送りにした。






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