22. 金谷くんと雪1


「……雪、降ってきたね」

 優奈の言葉を聞いて、私は窓から外を眺めた。
 確かに雪がしんしんと降り積もっていた。降り積もるまで気づかなかったのは、生徒会の準備に追われていたからかもしれない。
 この学校の卒業式は、『三年生を送る会』と同時に開催され、卒業式には全学年が参加することになる。送る会、と言ってもそれぞれが歌を歌い、プレゼントを渡すだけの、いわゆる卒業式の前段階的なものなのだと思って貰えれば良い。

「どへえ、傘持ってきてないよ。参ったなあ」

 さらにそう言ったのは優奈だった。優奈はついこないだの失恋をすっかりバネにして生徒会の作業に勤しんでいる。それは誰にとっても良いことなのだろうけれど、優奈本人からしてみれば、切ない話であることには何ら変わりも無い。
 いずれにせよ、傘を持ってきていないのは私も同じだった。家族に連絡でも入れて傘を持ってきて貰おうか。いや、それはさすがに家族に申し訳ないといったものだ。はてさて、どうすればいいだろうか……。

「生徒会なら傘を借りられたり出来ないわけ?」
「そもそも傘が学校に余っていれば、の話だが。可能か不可能かと言われれば、可能だ。でも別に生徒会の特権ではなくて全学生に提供される権利の一つだ。だからもしかしたら既に無くなっているかもしれない。それについては、理解願いたいものだね」
「それくらい、仕方ないことよね。でも、確認ぐらいはしてくれるよね?」
「…………一応確認するけれど、誰が?」
「え? 君が」

 生徒会長に傘の有無を確認して貰うのか。

「だって私たちは手が離せないし……。出来る事と言えば、生徒会長自ら確認に言って貰うことぐらいよね。書類に目を通す必要がある、といわれてもその書類の締め切りは大分先。流石に年度をまたぐ程のものではないだろうけれど」
「分かった、分かった。とにかく見てくれば良いんだな」

 ミキの言葉を聞いて、深々と溜息を吐く俊くん。
 何だか可哀想に見えてくるけれど、それも仕方ないことだ。許せ、俊。私も私で忙しいのだ。

「そんなに忙しいなら、僕が見てきてやろうか、俊? それとも単純に先生と顔を合わせたくないだけだと抜かすのなら、それはそれで断っておく課題ではあるが」
「ち、違うよ! そんなことがある訳がないだろう!?」
「だったら、職員室に行けるだろう? 今お前に課せられている仕事は殆ど僕が片付けてしまっているはずだ。元来、そんなことはしてはいけないはずなのだが、お前が『学業が忙しいから』『他の仕事が忙しいから』と言ってくるから仕方なくやっていることに過ぎない訳だが。違うかね?」
「……それは……」

 何も言えなかった。
 何も言い返せなかった。
 要するに『仕事の押しつけ』を正当化していると思われたくなかったからだろう。
 いずれにせよ、それは大きな間違いであり、それは大きな失敗であり、大きなミスであるのだろうが。






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