23. 金谷くんと雪2
と、言う訳で。
俊くんが職員室に傘が無いかどうか見てきてくれる間、私たちは暇を弄んでいた。
だったら誰かが見に行けば良かったのではないか、なんてことを考えてしまうのかもしれないけれど、いざ俊くんが見に行ったら仕事があれよあれよと片付いてしまったのだ。誰も悪くない。強いて言えば、仕事の効率が上がったのが悪い。
「……暇だね」
「俊には悪いことをしてしまったね。これなら、僕が見に行っても良かっただろうに。彼も彼で仕事が溜まってきてしまって、帰ることが出来なくなるなんてことが起きてもおかしくはない」
「え? でもさっき、仕事は無いって」
「副会長には副会長の、会長には会長の仕事があるんだよ。例えば作業の確認とか」
「……それって、仕事って言わなくない?」
「え? そうかな」
「マキー、ちょっとジュース買ってくる」
言ったのはミキだった。優奈もそれに従うようだった。
「あ、だったら私も」
「マキは待ってなよ。何が良い? オレンジジュース?」
「うん、まあ、それで良いかな。で、なんで待ってなきゃいけないの?」
「それは自分で考えなー。それじゃね」
そう言って。
ミキと優奈は売店へと向かっていった。
生徒会室には、私と金谷くんの二人きりとなった。二人きりになったところで、何か話題が生まれる訳では無い。
だから、生まれるのは、沈黙。
深い海のような、沈黙。
重い空気が流れ込んできているような、そんな感覚。
「……ねえ、飯野さん」
唐突に。
金谷くんが声をかけてきた。
「な、何?」
「この前の。バレンタインの件なんだけれど。遅くなってしまってごめんね」
ごそごそ、と。
鞄をまさぐって、何かを取り出した。
それはクッキーの入った袋だった。
「……これは?」
「ほら。バレンタインの時に、ケーキ貰ったでしょ。そのお返しに……と思ったんだけど、口に合わないかな」
「あ、合わないとかそういうことはないよ!? 全然、大丈夫だから!!」
私はクッキーの袋を受け取ると、そのまま自分の鞄に仕舞った。一応学校の規則で、校内に食べ物の持ち込みは禁止されている。生徒会の人間がそのルールを破ってしまうのは大変宜しくない。だから、見られる訳にはいかない、という訳だ。
「それで、話の続きだけれど」
「え? 未だ何かあった?」
不味い、と私は言ってから気づいた。
そんなこと、分かっていただろうに。
クッキーを貰った時点で、気づいていただろうに。
「……飯野さん、僕は君のことが」
ああ、それを聞くのか。
私の方から言わなきゃいけないと思っていたその言葉を。
「――――好き、です」
そうして。
私は、人生初の告白を受けるのだった。
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