26. 金谷くんと卒業式3


 卒業式の片付けも終わり。
 私たちは漸く家に帰ることが出来るようになった訳だけれど。

「ゴメン。僕は忙しいから、兄さん先に帰ってて」
「私たちも忙しいから先に帰っててよー」

 と、いう訳で。
 気づけば一緒に帰るのは、私と俊くんだけになっていた。

「……寒いね」

 雪は降っていなかった。けれど、風がとても冷たかった。

「うん……」
「マフラー、貸そっか」
「え!? いいよ、いいよ、別に」
「そうかい? 寒そうだし。僕は別に問題無いから。ほらほら」

 そう言われて。
 マフラーを首にかけられてしまった私。
 ほのかに暖かいそのマフラーをかけられてしまったからには、今更返すよとは言いがたいものだった。

「……、」
「……、」

 長い沈黙。
 耐えがたい沈黙。
 その沈黙は長い。
 とても耐えられるものではなかった。

「…………ねえ、」
「うん?」
「この前の、話なんだけどさ」
「この前?」
「この前というよりかはさっき言っていた話。海外に行くって本当?」
「うん。嘘を吐くつもりは無いよ。海外は魅力的なところが多いと思ったからね。だから、一度は海外に行きたいと思っていた。親の許可も貰ってるし」
「じゃ、海外に行くのは……確定?」
「ほぼ、確定かな」

 それじゃ、この前言っていた『告白』はどうなるんだろう。
 私は思って、さらに続きを聞き出そうとしたが――。

「きっと、君はこの前の告白を裏切るって思ってるんだろうね。分かるよ、その気持ち」

 でも。
 俊くんは胸に手を当てる。

「あのとき言った思いは、嘘じゃ無い。それだけは分かって欲しい」

 どくん、と胸が高鳴った。
 この思いは何だろう。
 この気持ちは何だろう。
 この思いは、気持ちは――。

「ねえ、俊くん」

 私は彼に告げる。
 あのとき言えなかった思いを。
 あのとき答えることが出来なかった思いを。

「私、あなたのことが好き」

 私は、言った。
 ついに、彼に告げた。

「……ありがとう。僕の思いに答えてくれて」

 俊くんは私にそう言って、身体を抱き寄せた。
 そうして私たちは抱き合った。
 寒空の元、私たちだけが熱源になっていったような、そんな感覚。
 寒さを吹き飛ばしていくような、そんな感覚。
 そんな感覚が、私たちに、私たちだけに走っているような、そんな気がした。


 人々の思いを載せていく、冬の風。
 そうして季節は新しいものを運んでくる。
 季節は春。時期は四月。
 私たちが三年生になる、高校生活最後の一年が始まる。



3月編 終わり





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