リーガル城にリュージュ達が到着したのは、二日後の昼過ぎのことだった。急いで行けば、昼前には到着していたかもしれなかったのだが、そこはリュージュが疲労感を訴えたために実現しなかった。
「……こんな魔法を使っただけで疲弊してしまうなんて。年は取りたくないものね」
「……ここで年齢を聞くのは、常識的に考えてタブーだろうね。うん」
「そう思っているならば、その言葉も口にしない方が良いのでは?」
「仲が良いようで何よりだな」
「……私が元気だったら、お前を燃やし尽くしていただろうよ」
「はっはっは。それは良かった。未だ私は死にたくないのでね」
 王の言葉を適当に受け取って、リュージュは椅子に腰掛ける。
「……で、遺跡調査の報告とは一体?」
「世界の歴史を知り得る、人間ならざる何かが居ました。いや、ありました、と言った方が良いのか……」
「……何が言いたいんだ、ボイド。私には難しいことはさっぱり分からない。だから、はっきりと言ってくれ。お前の言葉をお前が受け渡さないで、誰が受け取れば良いんだ」
 それは至極もっともな話だった。
「ええと、何というか……僕もはっきりと理解していないのですが、一言で言うなら……計算機? らしいんです」
「計算機? 計算機がどうして歴史を保存することが出来る。計算機は計算をするだけの代物とは違うのか」
「まあ……そう考えるのが普通だし、この世界にある計算機もその程度しか出来ないので、そう考えるのは普通ではあるのだけれど……」
「だが? だが、何かあったのか」
「……一言で言えば、それはこの世界よりも高い技術力を持った文明によるものだと推察出来る」
「……この世界では、その計算機を発明することは不可能だ、と?」
 頷くボイド。
 さらに彼の話は続いた。
「そして、これは仮説に過ぎないのですが……もしこの世界が、一度破壊されてしまったとしたら、どうでしょうか」
「破壊? それは……もしかして、『喪失の時代』と何か関連性が?」
「『喪失の時代』は、また別の可能性を模索しています。僕が言いたいのは……この世界は、二度情報の断絶があった。一度目は『喪失の時代』と呼ばれている時代、そしてもう一つは……その計算機が生み出された時代と、何らかの影響で起きたパラダイムシフト後の世界、ということです」

   ◇◇◇

「……なかなか面白い仮説だったな」
 ボイドとリュージュは謁見を終え、廊下を歩いていた。廊下、と言っても吹き抜けになっている廊下で、外からも中からも丸見えな仕組みになっているのは、ちょっと隠し事が出来なくて困るかもしれないのだが、それは別に気にしていない二人でもあった。
「いやあ、リュージュさんが何か知っているなら、そこで付け足してくれても良かったんですよ。だってリュージュさんは経験しているんですよね、『喪失の時代』を。世の中からその過去を知る情報が全て失われ、得ることが出来なくなった時代の知識を」
「……さあな。知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知らない。それまでのことだ」
「でも、この前何百年もの記憶を保持していられるって」
「興味のないことは直ぐに忘れるものだ。そうでなければ、生きていくのもつまらないだろう?」
「それも……そうですね。やっぱりあなたは、人間とは違う価値観をお持ちのようだ。ああ、いえ、別にそれを否定するつもりはありませんよ。生き方なんて皆それぞれ違うんですから。それに……」
「それに?」
「魔女であるあなたには、世界のことなんてあまり興味ないでしょうから」
「……何よそれ。言いたいことは分かるけれど、冷たいんじゃない?」
「アハハ、そうでしょうか。……僕はあまり人付き合いが得意ではないもので。だから、こんな風になってしまうんでしょうね。それについては……弁解しようがありません」
「弁解しようとは思えないし、弁解してもらわなくても良いのだけれど?」
 リュージュの言葉を聞いて、ボイドはただ愛想笑いをするばかりだった。
 



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