ベッドでスマートフォンを操作するということは、はっきり言って自堕落と言っても過言ではない。しかしながら、一度この楽しみを知ってしまったらもう戻ることは出来ない。麻薬を使う時の気持ちがこの感情に近いのだろうか。いや、麻薬なんて使ったことないし使おうとも思わないんだけれど。
「……でもまあ」
 色々と考えるところはあったけれど、しかしながら評価は悪くない。この会社……会社で良いのかな? まあ、いいや。この会社は、色々と常識に囚われない――良い意味でも悪い意味でも――ところなので、そこについていけるかどうかが焦点になるのだと思う。
 ほんとうはもっとちゃんとした仕事になるのかと思っていたけれど、未経験で充分に良かったと思う。というか、こんな仕事を経験している人間が居たら直接会って確かめてみたいぐらいだ。悪の組織に、ほんとうに勤めていたんですか、って。履歴書にも書けないよな、こんなこと。
 履歴書に書く書かないは別として、一日この会社の仕事をやってみた評価としては――割と未だ普通の評価が上げられる感じだった。とは言っても、評価出来る程仕事を熟してきた訳ではないけれど……。でも、会社としては悪くない雰囲気だと思うし。業務内容と切り離して考えているだけに過ぎないし、業務内容についてはあまり考えたくない。
「この会社が何を考えているかについては……少し見極めないといけないかもしれない」
 少なくとも、今の状態では法律を違反しているかどうかも見えてこない。
 というか、法律というものが存在しているかどうかすら危うい。
「実際、それが良いかどうかなんてやってみないと分からないものね……」
 というか、それが一番のやり方なのかもしれない。
 実際問題、右も左も分からないところに放り込まれた訳だし、その右も左も分からない私を強引に引っ張っていくそれは――何というか、彼らからしたら見るに堪えないのかもしれない。
 しかしながら、強引に連れてこられたのだから、心の持ちようというのもある訳だし――それがどういうことなのかは、一番彼らが分かっているはずだ。はっきり言って拉致だし。
 じゃあ、どうやっていくかということについて。
 それは私が一番分かっていることだし、一番分からないといけないことだったのかもしれないけれど。
「……まあ、先ずは眠ろう……」
 そういえば、今日は訳の分からないことばかりで眠くて仕方がない。こういう機会、いつか何処かであったような気がするけれど、いつだったかな……あ、確かあれだ。研修期間の、右も左も分からない時に一日学ぶことばかりで疲れてしまった時があったっけ。初めての仕事ってこともあったし、慣れるまでには時間もかかったしね。まあ、それがあったからこそ今の生活があるのかもしれないな……しかしながら、この仕事を長く続けていくかどうかは、また別の話。はっきり言って悪の組織なんて長続きする気がしない。
 第一、法律を遵守していない組織なんて所属していたら自分も檻の中に入る可能性だってある訳だ。
 こんこん、とドアをノックする音が聞こえたのは、ちょうどその時だった。
「こんばんは。こんな時間にすいません。ちょっと……眠れないかなと思いまして」
 ドアを開けると、恵美さんが立っていた。手には何処で買ったのか分からないけれど、缶飲料のココアがあった。確かに眠れないときにホットココアを飲むのは良いって言いますもんね。
「まあ、別に良いですけれど……どうぞ」
 別に断る理由もないから、私は恵美さんを中に入れる。
 私はベッドに、恵美さんは椅子に座ると、それぞれココアのプルタブを開けた。
「……どうですか、仕事は慣れましたか?」
「いやー……慣れるも何も、未だ一日しか経験していないのですけれど……」
「あら、そうでしたね。もう一週間ぐらい過ごしているものかと。時間の流れが速く感じてしまうのですよね、この年齢になると」
 この年齢って……私とあんまり変わらないような気がするけれど。それとも美魔女か何かだったりします?
 


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