「ありがとね、和史くん。おかげで情報を把握することが出来た。どうやら、犯人は名古屋市を中心として……というか、名古屋市だけでしか犯行を実行してないらしい。何故犯人がそこに拘ってるのか分からないけれど、しかし、実際に現場を見ていけば何か分かるかもしれない。……なので、今から残りの現場を巡ることにするよ。何でも現場はあと……三つあるらしい。場所はどれも地下鉄の駅だとか。ええと、場所は……大曽根駅、瑞穂運動場東駅、そして、栄駅らしい。どれも出口へ向かう通路だったらしいのだよ。しかし、普通、そういう場所って目立ちそうじゃないか? どうやってそんなことをやったのか……」
「もしかしたら、人の目を欺く魔法を使えるかもしれないの。だとしたら、かなり強敵なの」
「クレア、確かにそれもそうだね。だとしたら、私たちも警戒して進まなくちゃいけない。いつかやって来る敵との対峙のために……」
 というか、その三つの駅ってどれも名城線の駅だったな。行きやすいと言えば行きやすいのだけれど、何か関係性があるのだろうか? もし、それが分かれば一番苦労しないのだけれど、それについては簡単に分かる訳がないよな。分かったら苦労しないし。
「それじゃ、先ずは……ええと、何処に向かえば良いかな? ここは名古屋歴の長い和史くんに意見を仰ごうじゃないか。大曽根と瑞穂運動場東、それに栄駅。一番近いのは何処だろう?」
「何でも知っている訳じゃないぞ、僕だって知識量には限界がある。……ええと、取り敢えず行くとしたらこのままバスに乗って、地下鉄の駅に出れば良いだろうな。名城線は環状運転をしているから、どの地下鉄とも乗り換えが出来る。つまり地下鉄にさえ乗ってしまえば……、いつか必ず名城線に辿り着いて、そこから今言った三つの駅に行ける、という訳さ。どの駅が近いかについてだけれど――」
 僕はスマートフォンを使って、名古屋市営地下鉄の路線図を出した。
「――これを見てもらえれば分かるけれど、平針駅に出るなら、八事駅経由で瑞穂運動場東駅が一番近いだろうな。星ヶ丘駅或いは本郷駅に出るなら、本山駅経由で大曽根駅に出る方が近いと思う。問題は、今から発車するバスで何処へ向かうのが先発かということになるのだけれど……」
「あ、もうバスがやって来たの」
 クレアが言ったので僕はそちらを見た。――見ると、星ヶ丘行きのバスが到着していた。それを見て僕はクララに声をかけようとする。しかし、それよりも早く、クララは頷いて、
「行き先は決まったようね。……行きましょう、あのバスに乗って、次の現場へ」
 それだけ聞いたら、色々掛け持ちしている人間みたいだな――なんて思ったけれど、それについては言わないでおいた。

   ◇◇◇

 星ヶ丘駅に向かい、それから地下鉄で本山駅へ。それからさらに乗り換えて大曽根駅に到着した。大曽根駅は地下鉄だけなら名城線の単独駅なのだが、他路線も含めると、JR中央本線、名鉄瀬戸線、さらに全線高架のガイドウェイバスという珍しい交通手段であるゆとりーとラインが走っている。何でも公共交通機関が好きな人間はこのゆとりーとラインに乗るためだけに、わざわざ大曽根駅まで何時間もかけてやって来ることがあるらしい。――僕にはあまり想像が出来ないのだけれど、それ程彼らにとってその交通機関は素晴らしいものなのだろう。そんなに凄いのなら、いつか乗ってみるか。機会があればね。
「そんなに気になるなら、乗ってみれば良いじゃないか。気づいたらやることなくなっちゃってた、みたいなことはありがちなことだよ?」
「……いやいや、大丈夫だよ。そんなこと起きる訳ないだろ。いきなり急に名古屋から旅立つなんて打ち切り漫画もびっくりな展開だよ……」
「大曽根駅は、色々とバスが発着するようだね。ここから家に帰れるバスはあるのかい?」
「一応調べると、一時間に一本ぐらい走っているようだけれど……。どうして?」
「いや。今日は全部見ることは出来ないかな、と思ったから。もし見られなかったら、次の日に順延しようかななんて思ってるのだけれど。どうしようかな?」
「まあ、でも、間に合うんじゃないですか? 別に遠い場所を巡る訳じゃなく、全部が全部名古屋市内な訳ですし……。市内なら別に良いんじゃないですか? 僕は全然問題ないと思っていますけれど。クレアはどうなの? クララさんは……まあ、聞かなくても良いような感じがしますけれど」
「カズフミさえ良ければ、私も良いの」
「じゃあ、決まりだな。私も全然問題ないからな。……私としては、早々にこの事件を片付けておきたい。本当に、魔法使い……いや、錬金術師が関わってる事件なのか、そうではないのか。違うのならそれで良いんだよ。良いんだけれど……でも不安は残るよね。『流れ』が悪い原因が分からない。出来ることなら、これが関係してれば良いのだけれどね……」
 でも――それが分かるかどうかなんて簡単に見分けられることは出来なかった。出来るはずがなかった。で、あるならば。僕たちはそれをクリアすることが出来るのだろうか。今すぐに判断することは出来ないけれど、今すぐに理解しようと思うことは出来る。いずれにせよ、この事件の方向性は未だ定まっていない。定まっていないならば、定めようとすることは出来るかもしれない。
「……カズフミ? どうしたの」
 クレアに声をかけられて、僕は前を向く。置いていかれていることに気づいて、僕は慌てて走り出す。今置いていかれたら、いつか間に合わなくなるような気がするから。

   ◇◇◇

 三つの駅を回り終えると、夜八時を回っていた。三つの場所はどれも血痕があるようで、そこから行方不明になった女子中学生のDNAも把握出来ているらしいので、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いだろう――なんて判断が出されているらしかった。何処まで本当なのかははっきりとしなかったけれど、しかし、それが正しくないとも言い切れない。
「どうだったんだ? 錬金術師……或いは魔法使いの犯行か?」
「はっきりとは言い切れないけれど……しかし、その可能性は充分あると思う。でも、一番ネックなのは、何故このような犯行をするのか? ということについて。やっぱり魔法を使った形跡が見受けられないのよね……」
 今、僕達は街を歩いていた。理由は特にないのだが、そもそも僕とクレアの家が駅に近いという訳でもなく、最寄りの駅から少し歩くという訳だった。だから歩く行為については寧ろ当たり前であるし、それ以上でもそれ以下でもない。しかしながら、このような事態だ。クレアが対象の女子中学生ではないとも言い切れない。では、僕達はどうにかしてその犯人からやり過ごさなくてはならない訳で――。






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