第一章 同盟結成 1
僕の活動開始は遅い。
むくりと起き上がると、時刻は夜七時を回っていた。
普段よりは早い時間かもしれないけれど、世間一般的には遅い時間なのだろうなと思う。
僕はもうかれこれ数年は朝に起きたためしがない。
早起きには無縁の存在だからね、僕は。
テレビをつけると、今日もバラエティ番組しかやっていない。ひな壇でワイワイガヤガヤしている芸能人が、司会に突っ込まれている姿ばかりが目に映る。
テレビと言えばロケなんだろうけれど、お金がなくなってしまったからか、あまりそれをしなくなっているような気がする。
いや、お金があるから、人を雇える余裕があるのかな?
「……お腹が空いた」
お腹が空いたと言うことは、僕のお腹が空腹であるということだ。
僕が住んでいるマンションの裏手には、コンビニがある。駐車場も広いので、トラックやタクシーが止まって休憩することも珍しくない。近いので毎日のように使っている。デメリットと言えば明かりが漏れていて、窓からその明かりがまぶしく感じるぐらいだ。
「取り敢えず、ご飯かな……」
食事は取らないと、人間は生きていけない。
それは、超夜型人間である僕だってそうなのだ。
何もない部屋――というのは言い過ぎだけれど、僕の部屋は非常に簡素なものとなっている。
部屋のど真ん中に液晶テレビ、そこには最近話題のゲーム機が一台。何故あるかというと、抽選に偶然応募したら権利を得てしまっただけの話。気がついたら、違うゲーム機に触れてしまうこともあるのだけれど、少なくとも僕には違いが分からない。
「……ええと、忘れ物忘れ物」
ジャージの上を着て、外に出ようとしたタイミングで、僕は忘れ物をした。
机の上に置いてあった、スマートフォンだ。
今では、財布を持ち歩くことなく、このスマートフォンさえあれば生活出来るのだから、良い時代になったものだと思う。とはいえ、ただスマートフォンを持ち歩くだけじゃ不可能だというのは、誰だって理解していることだと思う。
後はカードキーを持って、外に出る。
外は少しだけ寒かったけれど、これぐらいなら我慢出来る。マンションの廊下を抜けて、エレベーターで一階に降りると、もうそこはエントランスだ。
このカードキーがないと、中に入ることは出来ない。だから、部屋に入るときには鍵を二つ渡される。何故なら一枚しかなかったら、それをなくしてしまったら二度と部屋に入ることは出来ないからだ。
一応、一万円とかかかるらしいけれど、管理会社を呼べば何とかなったりするらしい。僕はやったことないけれど、こないだ隣人がそれで管理会社を呼んでいたっけな。
ま、僕にはあまり関係のない話だ。
とにかく、腹ごしらえをしなければ。
マンションの角は交差点になっている。裏道になっているのか、車通りは激しい。少し飛ばしている車が多いから、気をつけないと、交通事故の被害者になってしまう。
コンビニに入ると、気怠い様子の店員が、
「いらっしゃぃやせー」
そう言ってきた。マニュアルに、気怠く対応しろと書いてあるのだろうか。知らないけれど。
僕は買い物カゴを手に取って、いつものメニューを取っていく。
菓子パン、生姜焼き弁当、サラダ、ドレッシング、豆乳、ジャスミン茶、ブラックコーヒー、ラムネ。
いつも、僕はこれしか買わない。新商品が出たって、欠品になったって、これ以外を買うという選択肢はない。弁当がないと流石に困るけれど、菓子パンは絶対に欠品になることはない。だから、もし弁当が欠品になってしまったら、僕は菓子パンを買う。
バーコード決済アプリを起動して、それをレジに通す。スキャナーのようになっているらしく、直ぐ金額が引き落とされる。チャージしている訳ではなく、クレジットカードを登録しているので、ここに関してはチャージする心配はない。
クレジットカードは、正しく使えば問題はない。不安に思う人も居るし、クレジットカードに嫌悪感を抱いている人も居るのだけれど、きちんと使っていればメリットが多い訳だし、別にそこについて否定するつもりは毛頭ない。
袋はいつも購入するから、三円差し引かれる。弁当はレンジで温めてもらわない。この店員は言わなければ何もしない、オプション型だ。向こうからやる・やらないを言ってくれた方が十二分に有難いのだけれど、そういう店員がこの時間にやって来ることは非常にレアだ。
「ありぁとうございやしたー」
自動ドアの開閉に合わせて、店員はそう言う。その癖のある挨拶にも、多少は慣れてきた。
コンビニ店員というのは、意外と早いスパンで入れ替わるものだ。あの店員ももう三ヶ月は居ると思う。もしかしたらそれまでは夜勤の時間で対応していなかったのかもしれないけれど、僕が出会ったのは未だ三ヶ月なのだから、そこについて否定するつもりはない。
部屋に戻って、弁当をチンする。生暖かい弁当と、サラダ。これが僕の夕食だ。いや、朝食で良いのかな、今起きたばっかりだし。
そうしてそれを食べて――感想はない。いつもと同じだし――僕はゴミ袋にそれを捨てる。
ゴミはきちんと週二回出している。けれど、僕は夜型なので、起きて直ぐやっている。悪いとは思わない。別に、数日も放置している訳ではないし、それが通用しないなら夜勤の人間はどうやってゴミを捨てるのだろうか。
「……さぁ、出掛けようか」
これからが、本番。
僕が、一番楽しいと思う時間。
僕が、一番面白いと思う時間。
僕が、一番輝けると思う時間。
フード付きのパーカーに着替えて、僕はラムネをポケットに仕舞い込み、外に出た。
これからは、夜遊びの時間だ。
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