第一章 同盟結成 2
僕の目的地は繁華街だ。
夜七時に起きて外に出ると言ったら、それぐらいしか考えつかないのは、その通りではある。
実際、田舎と都会の中間のような場所だから、僕が住んでいるマンションの辺りは住宅街でしかない。駅からも離れているし、バスは一時間に一本だけだし。
夜八時にもなれば、繁華街から帰ってくるバスは混雑しているのだけれど、その逆はそうでもない。途中のバス停でも充分座れるぐらいだ。
バスは大通りを走るのもあれば、このバスのように細い路地を延々と走るものもある。まるで阿弥陀籤を体現しているような感じではあったけれど、バスの方が意外と使い勝手が良かったりする。
バスに乗り込むと、乗客は僕一人だった。一人は慣れっこだけれどわ、こう空気輸送していると今後が不安になってくるな……。だって、バス会社も慈善団体じゃないんだから、利益の出ない路線は廃止するに決まっている。そうして利益を追求し続けるのは、公共交通機関としてどうなのか、なんて話にもなる訳だけれど、案外そういうのはどうでも良かったりする。そもそも、使わない方が悪いし。
バスに揺られると、途中で大学生が数人乗り込んできた。このバスは大学のキャンパスを経由しているため、大学生がこの路線を利用していることがある。だから、別に珍しいことではない。
「なぁ、聞いたか?」
「何が?」
大学生は僕が乗っていることも忘れて、普段の話と同じようなトーンで話し始めた。
「原因不明の突然死、昨日もあったらしいぜ。あの繁華街ばかり狙われるのは何か理由でもあるのかな?」
「えぇーっ、マジかよ。もうこれで何人目だ? 被害者だってバラバラなんだろ、年齢から性別から体型まで。その被害者が一様に同じ理由で死んでいるんだろうけれどさ――その理由が分からない訳だよな」
確かに、殺人事件の犯人の心情が直ぐに理解出来たなら、それは犯人に近しい存在だと思われて疑われるかもしれないし、仮にそうだとしても口が裂けても言えない気がする。
「……もしかして殺人事件なんじゃねえの?」
大学生の一人がぽつり呟くようにそう言った。
「仮にそうだとして、死因は何なんだよ。外傷も内出血もなくて、薬物反応もなかったらしいぜ? 何なら全員が心臓麻痺で亡くなっているらしいけれど……」
「昔の漫画にあった、名前を書いたら死ぬノートじゃあるまいし、そんなことはあり得ねーんだよな。実際、何かしら理由があって人は死に至る訳だし……。でも、これの理由が解明出来たら凄いよな」
「解明……って。そんなのもう警察がとっくに着手しているよ。実現出来るかどうかはまた別として」
「実現出来るのかね――だって、現代科学じゃ解明出来ないのなら、それは現代科学の敗北のような気がするけれど」
大学生は終点の一つ手前で降りた。結局ずっと話をしていたけれど、さっきの突然死の話を除いて、ずっと他愛もない話をしていた。大学生といえばそういうものなのかもしれないけれど――そういうと語弊があるかな。
僕は終点まで乗った。終点は繁華街の中心より少しずれたところにある、公園の地下のバスターミナルだ。公園の上には、ガラス張りのビオトープがあり、絶えず水が流れているために、夏は涼しいらしい。一度も行ったことはないけれどね。
夜も遅いので、高速バスが止まっていた。ここから東京や大阪に出るバスが多数発着している。使ったことはないけれど、今は高速バスも大分乗り心地が良いものだからか、バスターミナルには大きいキャリーバッグを持った人間が何人か待機していた。旅行に行くのか、仕事で行くのかは分からなかった。
電光掲示板を見ると、四方八方に伸びる路線がひっきりなしに発着するのが分かる。高速バスだけではなく路線バスも発着するので、バスターミナルはかなり広大だ。理解しておかないと迷子になる。
バスターミナルを後にすると、ギターを弾く女性が目に入った。ここは繁華街であるし、このような人が居るのも珍しくはない。ある時はギターの演奏、ある時はサックスの演奏、またある時は手作りドラムの演奏まで行われていて、意外と幅が広い。演奏だけで終わってしまうのは、幅が広いと言い切れるのかは多少疑問符が浮かぶけれどね。
観客は誰一人として居なかった。可哀想と言えば可哀想だけれど、路上ライブとはそういうもので、チケットにより観客が担保されているものとは大いに異なる。リスクもあるが、観客がチップを出してくれるリターンもある。大抵は趣味でやっているのか、はたまた本気で仕事にしたいのかは分からないけれど……。
「……あ」
百貨店の屋上にあるネオンサインが消えると、時刻はもう夜八時をとっくに回っていた。
かつては時短営業とか言って、七時には閉めていたこともあったらしいけれど、それはもう昔の話。今はすっかりかつての喧騒を取り戻しているようで、百貨店にも人がごった返しているらしい。
ま、僕には知ったこっちゃないのだけれどね。
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