第一章 同盟結成 3
繁華街は何も隅から隅までネオンサインがギラギラと輝いている訳じゃない。今は電気代を無駄にするななんていう声も出て来ているし、実際それについては何も言えない。多分僕だって電気を無駄遣いしている方だから。
繁華街を見ていると飽きない。何故なら沢山の風景が広がっているからだ。風景というよりかは人の表情も含まれていたりする訳だけれど、それについてはあまり触れないことにしておく。触れたくない訳ではなく、触れない方が良いというニュアンスなのだけれど、伝わっているだろうか?
でも、僕はそんな表の顔をあまり見たことがない。
夜に輝くネオンサインも、キャバクラやホストクラブの店員も、酒に酔っぱらっているサラリーマンも。
そんなのはあまり好きじゃない。だから、見たことないのかもしれない。
見たことないのは悪いことではないと思う。興味がないのはどうかしているかもしれない、なんて言われるかもね。
ただ、そんなことは知ったことではない。それはもう周知の事実――誰に向けて、なのだろうね?
僕が好きなのは、路地裏だ。
ジメジメした空間で、明かりも灯っていなくて、人通りも少ない。
その空間が、僕は好きだ。
何故なら――、誰にも見られないように人を殺すことが出来るから。
「あら、可愛い子が居るわね」
……今日の標的がやって来た。
飛んで火に入る夏の虫とは良く言ったものだと思う。
僕はニタリと笑みを浮かべる。
この笑みは何だ? ――言うまでもなく、これは歓喜だ。
「……どうしてこんな時間にオトコノコが一人でフラフラしているのかな? お母さんとお父さんはどうしたの?」
「普通、お母さんとお父さんが無事だったらこんなことにはなっていないでしょうよ。……ここに居るってことは、何かしら問題を抱えていることになるんだからさ」
「……それもそうね」
納得しちゃうのか。
何だか、上手くいかないな……。このままだと、話のリズムをそちらに持って行かれそうな気がしてならない。
少しは、こちらがリードしなくては。
「……でもさ、少しは気にした方が良いんじゃない?」
僕は呟く。スタイラスペンを取り出して、歌うように話していく。
「うん?」
女性は未だ、自分がこれからどうなるのかを理解していないようだ。
だったら、これからが本番だよ。
「考えたことはない? 人間って意外と頑丈な生き物なんだな、って」
「頑丈? ……ああ、そうかもしれないね。肝臓は無言の臓器と言われているんだっけ?」
「……そういうことを言いたいんじゃないんだけれど、まあ、良いか。人間の身体は、結構頑丈に出来ているって話だよ。それこそ、刺したぐらいじゃ死なないらしいからね。傷がつくぐらいじゃ、人間はそう簡単に死なない。勿論、心臓を串刺しにしたら話は別かもしれないけれどね」
「それはどの動物だって言えることではないの?」
「例えば、身体を焼いてしまったら、あっという間に死んでしまうかもしれないけれど、そこまで行き着くのが難しい。それに、身体が焦げる前に、熱い空気を吸って気管支が火傷してしまうらしいけれど」
「……何が言いたいのかな?」
「――つまり、人間は簡単に死なないというのが常識として存在している、ということだよ」
けれどね。
それはあくまでも『常識』に過ぎないんだ。
僕の常識には適用されていないけれど。
そうして、改めて女性を一瞥する。
そうして『ポイント』を確認すると――スタイラスペンを手に取って、そのままトンと軽く当てた。
何度言ったか覚えていないけれど、このスタイラスペンはボタンを押すと電流を流すことが出来てね、だから刺激を与えることが出来る。
普通なら、ツボ押しだとか、或いはお灸を据えるだとか、そういう健康グッズになり得ることなのかもしれないけれど――少なくとも僕の場合は違う。
寧ろ逆。
僕が突いているツボは――人間の『急所』だ。
急所を突くとどうなるかというと、簡単。
因みに他の急所では、倒れてしまって蹲ることはままあるらしいけれど、それでも息絶えることはないらしい。
しかし、僕が見える急所を突くことで――その人は死ぬ。
無論、ただ普通に突くだけで死んでいたら、もっと人は簡単に死んでいるのだろうけれど、電流を流すことでそのツボを刺激してしまえば良いだけだと分かった。
というか、教えてくれた。
昔、悪友とも言うような、師匠とも言うような存在に。
急所を突かれた女性は、そのまま倒れていった。
いつもと同じ。僕の見る景色はいつもと変わらない。
だから、僕はこれを見て終わりだと思っている。
片付けのようなものだと思う。
殺人鬼の中には、殺人という行為そのものを芸術だと考えていて、殺人をした後に死体をデコレートすることもあるらしいけれど、僕は理路整然と殺人を行っているだけに過ぎない。
ビジネスで殺人をしているのと、趣味で殺人をしているのとでは、考えは違う。
いや、どちらにせよ殺人はしているのだけれどね。
僕はそんなことを思いながら――今日も一仕事終えたな、と考えて踵を返した。
その、時だった。
「……いやあ、まさかそのスタイラスペン、電撃が流れるとはねえ……。パーティーグッズか何かかな?」
それを聞いて、僕は息が止まるかと思った。
何故なら――僕の背後から、今殺したはずの女性の声が聞こえてきたからだ。
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