第二章 よふかし指南 2
「……聞いておいた方が良いんですか、その謎のローカルなポイントについて」
「ポイントが貯まったら豪華景品と交換できるかもね?」
ふわっとしている……!
「いや、もっと何か……ないんですか、それじゃ全く意味のないような……」
「人生に意味のないことなんて、あんまりないんだよ」
「……吸血鬼に言われるようなことでもないような気がする」
立ち上がって、梓は僕にタブレットを手渡した。
「これは?」
「一応目を通しておいた方が良いんじゃないか、って思ってね。吸血鬼とはなんぞや? という話だよ」
いや。それぐらい知っているし。
「……吸血鬼って、小説や漫画の中で出てくるような、人の生き血を吸う生き物でしょう? ニンニクや十字架、それに日光も天敵でしたっけ。あれ、銀の弾丸も一応弱点だったような?」
「それは狼男ね……、一応吸血鬼にも効果はあるけれど、きちんと発揮するのは狼男だから、そこら辺間違えないように」
そんなこと言われてもなあ……。少なくとも、銀の弾丸を撃ち込む機会なんて、今後絶対出てこないだろうし、そこについてはそんなこともあったな、と歌謡曲の歌詞のように流していくしかないだろう。多分、きっと、メイビー。
「吸血鬼というのは昔から居るんだよ。……でも、皆人間社会に親しんでいった。何故か? それは、人間と敵対し続けても意味がないと思ったからだ。そりゃあ、生き血は欲しいけれどね。別にこのご時世、ネットショッピングをすれば冷凍で血液パックは届くし。A型、B型、O型、AB型、さらにRHプラスとRHマイナスも選ぶことが出来る。尤も、価格はどれも統一されていないけれどね。需要があれば低いし、需要が少なければ高くなる。同時に、供給が少なければ高くなるし、供給が多くあれば低くなる。一応、人間社会に大ダメージを与えないことが大前提だし」
「……意外とちゃんとしているんですね。でも、それならどうしてさっきのように追いかけられるんですか?」
「吸血鬼は不老不死の種族として知られているだろう? それは、人間の生命力を奪っているからだ――なんて捉える人も珍しくない。裏の世界では、そう思っている勢力も少なくないからな。そして、その勢力が厄介なのは……、そこから一つ上のフェーズに行っていることなんだよ」
「フェーズ?」
「……考えてみたら分かる話だよ」
梓はニヒルな笑みを浮かべる。
「不老不死の力を簡単に手に入れる術が見つかったとしたら、強欲な人間ならどうすると思う?」
「……そりゃあ、普通に考えてその力を手に入れようと画策するんじゃないですか? 不老不死が、どれだけの価値をもたらすのかは知りませんけれど」
「人間は不老不死に高い価値を見出している。人間含め生物には必ず寿命が存在しているからな……。しかし、多くの人間が思っている以上に、不老不死にはあまり価値はない。確かに、古代の為政者もそれを求めて、様々な行動を行った人間は居たがね。水銀を愛用した為政者も居たんじゃなかったかな?」
「……それ、今でこそ笑い話になりますが、昔は本気で信用していたんでしょうね……」
藁にも縋る思いだったのだろう、きっと。
正直あまり褒められるような行動でもないのだろうけれど、こればっかりは責める気にもならない。
「……致し方ないのだよね。でも、その頃から我々吸血鬼は研究対象として見られることが増えてきた。とはいえ、我々もそう簡単に姿を見せはしなかった。下手したら殺されかねないからな、死なないけれど」
「それ、吸血鬼ジョークですか?」
「まあ、安全ではないのは事実だった訳だ。しかし、我々としても血液は欲しい……。そうなった結果、現代では吸血鬼はある職業に多く居るようになった。……何だと思う?」
「……何でしょうね。血液が欲しいんですから、そういった職になるんでしょうけれど。そうなると、やっぱり看護師ですか」
それを聞いた梓は、目を丸くしていた。
まさか、その回答に辿り着かないと思っていたのか?
だとしたら心外だ。僕だって、少しぐらい考える頭は持っているよ。
「……何故その結論に?」
「血を合法的に扱える職って、そう多くありませんからね。先ず医療従事者でしょう。しかし、医者は医師免許が居る。あまり言いたくありませんが、表にあまり出られないような吸血鬼が、医師免許を取得出来るとは到底思えません。となると結論は、看護師。看護師も確かに資格は必要なはずですけれど、医師免許よりは厳しくなかったはずですし」
「……その推理力、もっと別のところで使えたら良かったんじゃないかな。私はそんなことを思い浮かべるよ」
「推理力で飯が食えるとでも?」
「逆に問うが、人殺しでは飯は食えないだろう?」
「……ま、そりゃそうですよ。そう思うのが自然ですし、それが当然。ゲームじゃないんだ、モンスターを倒したら賞金が貰えるなんてことは現実世界じゃ有り得ない。だから世知辛いのかもしれませんけれど」
言う程世間を長く知っている訳ではないけれど、しかしながら世間に文句を言えるぐらいは生きてきたつもりだ。軽口になるかもしれないけれど、それぐらいは言ったってバチは当たらないだろう。
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