ボルケイノは大忙し!
ドラゴンメイド喫茶、ボルケイノ。
おそらく世界で唯一だろう、ドラゴンメイドが喫茶店を開いている場所だ。一応、念のために言っておくが、ドラゴンメイドという種族が居るのであって、ドラゴンがメイド服を着ているわけではない。もっと言うならばドラゴンメイドがメイド服を着用しているわけだけれど。
「おい、ケイタ! 料理が出来たから、持って行ってくれ!」
ボルケイノには店員が俺を入れて三人しかいない。そして料理を作る専任スタッフは、裏で料理を作っている――正確に言えば、今俺を呼んだメリューさんしかいない。
俺はどんな仕事をしているかと言えば、一言で言えばホールスタッフ、だろうか。
正確に言えばカウンター、その他テーブルでの客との対応を指す。あとは皿洗いもやっている。ただしそれはあくまでもお客さんとの仕事が忙しくなければ、という前提条件があってのこと。忙しいときはメリューさんかティアさんにお任せするパターンもある。
「それにしても最近は忙しい……」
どうしてか、最近はお店がとても忙しい。店を経営する人間からすれば嬉しい悲鳴なのかもしれないが、従業員が増えない現状を考えるととても大変ではある。メリューさん自体あまり従業員を増やしたがらないので仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが、しかしこのままだと過労死しかねない。
「しかしどうすればいいかしらねえ……」
落ち着いた一瞬のタイミングで、メリューさんが言った。
どうやらメリューさんもこの状況を危惧しているらしい。
「……やっぱり従業員を増やしたほうがいいんじゃないですか。具体的にはホールスタッフを」
「ケイタ、言わせてもらうけれどね。こちらだって人手不足なのよ。出来れば料理を作る補助のスタッフでもいてくれると大変便利ではあるけれど……」
「でも料理スタッフの追加のほうが大変じゃないですか? メリューさんのタイミングに合わせるスタッフなんてそれこそ難しいですよ。だったらホールスタッフを増やして、料理はティアさんに手伝ってもらったほうが……」
「それ、ティアが絶望的に料理出来ないことを解っていて話しているわよね?」
そう。
ティアさんは絶望的に料理が苦手だ。だから手伝いと言っても野菜の皮を剥くなどの下準備や、皿への盛り付け程度しか出来ない。結局は食事の大半をメリューさんが作る羽目になってしまうのだ。
「……それは近いうちに解決しないといけないわね……」
メリューさんがそう言って、どこか窓の外に目線を向けた。
季節はもうすぐ春。出会いの季節、とも言われている時期だ。
もしできれば、ボルケイノにも新しい出会いがあればいいのだけれど――。
そう思いながら、俺は溜まり溜まった汚れた皿を洗うべくスポンジを片手に歩き出すのだった。
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