新メンバー加入! (メニュー:特製クッキー)


 ドラゴンメイド喫茶『ボルケイノ』。
 どんな異世界とも交流することが出来る第666次元軸に存在するこの喫茶店は、いつだって暇だ。ある種、当然だとも言える。
 変わり映えのしない日々に、少々飽き飽きしてきても致し方ないのかもしれない。
 しかし、最近――というか数日前に、ボルケイノにも新たな変化が訪れた。シーズン4までしっかり読んでいるファンの皆さんなら薄々察しているかもしれないけれど、新メンバーの加入である。ってか、もう十年もやっているらしいね。時間はそんなに経過していないはずなのに、夏のオリンピックももう三回ぐらいやっているのかな? 次のオリンピックって何処だっけ? ソルトレークシティ?

「いや、それいつのオリンピックよ……。次にやるのは、冬だとミラノじゃなかった? 夏は……二年後だからあんまりフィーチャーされていないけれど、三カ国ぐらいで合同開催だったような?」

 サクラのツッコミが入ったところで、延々と長話をするのは止そう。万が一、これが書籍にでもなった時に『いつ書いたんだこれ?』って話になっちゃうから。

「じゃあやるんじゃないわよ……」

 そう言ってサクラは頭を抱える。
 悪いことをしちゃったな――失敬失敬。反省します。

「ところで、ミルシアさんは?」

 サクラが話題を変えて、質問をしてきた。
 そう、ボルケイノに入ってきた新メンバーこそ――ミルシアさんなのであった。
 かつては何処かの異世界にある何処かの王国の国王陛下であった。女王陛下、とでも言えば良いのかな。まあ、ともあれ国家を運営すると言うのはなかなかにハードであって……、時たまその鬱憤を晴らしにボルケイノにやってきていた、いわば常連さんである。
 しかし何でそんな高貴なる身分のミルシアがここで働くことになったのか、という話だけれど――それは前のエピソードを読んでいただくとして、割愛させてもらう。

「さっきから、第四の壁を越え過ぎじゃない?」

 そう言っているサクラだって、越えているだろ。
 フィクションの世界と現実の世界を越えることって、なかなか大変だし。
 まあ、そんなこと数多の異世界と繋がることの出来るボルケイノには関係のない――或いは、些事と言えることなのかもしれないけれど。
 閑話休題。

「……ミルシアさんなら、未だ着替えているはずだよ。メリューさんと一緒にバックヤードに居なくなって、それから帰ってきていないし……」

 あらそう、と興味があるんだかないんだか良く分からない返答をして、サクラはカウンターにある椅子に腰掛ける。

「……何だよ?」
「いやあ、それにしても、まさかミルシアさんと一緒に働く日が来るなんてね? 人生って何が起きるかさっぱり分からないものね」

 まあ、言いたい気持ちは分かる。
 結局人生って何が起きるか分からないから、単調に思えなくなるんだろうな。よく出来ているよ。

「哲学者だか誰かが言っていたわよね。人生って悲しいことと楽しいことがちょうど半分ずつ。つまり、悲しいことばかりも起きないし、その逆も然り。前者は頑張ればいつか報われるし、後者は気を緩めすぎない方が良いって言うことだし」
「難しいこと知っているんだな?」

 そりゃあ、だてに生徒会入っていないか。
 俺はそんなことを思いながら、コーヒーを作り始める。

「あら、作ってくれるの?」

 サクラの言葉に俺は頷く。

「暇だしな。だからと言って、遊んでもいられないし。一応給料は発生している訳だからな」

 でも、こんなに閑古鳥が鳴いているのに、給料ってどうやって支払っているのだろうか? とちょっと不安になる時もある。
 閑古鳥が鳴く、ってことは当然その分の収入がない訳で。
 つまりは、メリューさんが暮らしていくことさえも難しくなる、という話でもある。
 けれど、俺たちへの給料は毎月きちんと支払われているのだ。一日も遅れることはない。手渡しではあるけれどね。ちゃんと俺たちの世界のお金で支払われているところを見ると、何処で両替しているんだろうか? と言う別の疑問も浮かんできてしまうが。

「ラッキー。結構、ここで出しているコーヒーって評判良いもんね。何処で作っている豆を仕入れているんだろ?」

 サクラはちょっとウキウキな感じになって、明らかにテンションが上がっている。
 確かにあまり気にしたことがなかったな――コーヒー豆だって、粉にする機械? はあるけれど、その原料が何処から来ているのかなんて気にしたこともなかった。
 何故なら気付かないうちに、ボルケイノの倉庫に補充されるシステムだからである。
 欠品や在庫管理なんて、不要だ。
 きっと在庫管理に苦労している人はたくさん居るだろうし――もしこれを聞いてしまったら、喉から手が出る程欲しいアイテムに違いない。そうであると思う。
 そんな裏事情をああだこうだと言う必要はなかったかもしれない――何故ならそれを気にしなくても、普通に仕事が出来るからだ。だったら詳しい事情は知らなくても良いだろう? 人間は低いところに流れるのはあっという間だからね。それをいかに維持するか――がある種大事ではあるのだろうけれど。
 コーヒーを淹れるのは、そんなに難しい話じゃない。説明することもしなくて良いかな、って思っているぐらいだ。とはいえ、ボルケイノに入ってからやり始めたから、日は浅いはず……なのだけれどね? もう十年ぐらいやっているような気がするけれど、気のせいかな?

「そうだ、私、これにあうお茶菓子を持ってこようかな」

 サクラがそう言うので、

「当てでもあるのか?」

 俺は思わずそう質問した。

「当てはある訳ではないけれど……。でもボルケイノだし、きっと何かあるでしょう!」

 あ、これ何も決まっていないやつだ……。
 しかしながら、ここでほったらかす訳にもいかないし、致し方なく、俺はサクラについていくことにした。お茶菓子がないコーヒーブレイクも、些か寂しいものであることは否定できないしな。


 ◇◇◇


 ボルケイノの倉庫というか物置というか冷暗所というか、どう説明すれば良いのか正直さっぱり見当がつかない空間というところに、俺たちは居た。

「どんなお茶菓子があるかなあ……?」

 ガサゴソと辺りを探している。とはいえ、別に無闇矢鱈に探っている訳ではなく、一応ある程度の分類が棚毎にされているので、目星をつけて捜索しているだけに過ぎない。
 ってか、そうじゃないと永遠に彷徨っちまうからな。
 しかし。

「ないねえ……。めぼしいお菓子はなかなか見当たらないよ」
「確かに。こっちを探しても全く見つからん……」

 別にここに保管されているのは、ボルケイノだけに使うものではない。
 メリューさんやティアさん、シュテン、ウラにリーサといった面々はここに暮らしている――つまりは、彼女たちの日常使いの食料も保管されているという訳だ。
 シュテンとウラは、甘い物好きである。
 つまりは……。

「はあ……。シュテンちゃんたちが食べちゃったのかな? まあ、別に悪いことではないけれどね。いくら鬼の子とはいえ、幼い子供だし。甘いものを食べ尽くしたい気持ちもある意味では致し方ないのかな?」

 そこはちゃんとメリューさんが躾しようぜ、ってなるけれど、まあ、そんなことを言っている余裕はないか。
 何せ立派な大人が一人しか居ないのだし。
 そこにミルシアさんが加われば、ある種百人力か? ……と言いたいところだが、ミルシアさんもミルシアさんで我儘キャラだったしな……。そういう意味では、メリューさんの心労も絶えないだろう。

「しょうがない。戻りますか」

 サクラは諦めたのか、あっさりとそう言って、倉庫の出口へトボトボと歩いて行った。
 しかし未練は未だあるのか、出口に行くまでの道中、棚に陳列されているものをジロジロと眺めてはいた――とっくに見たものばかりであるだろうに、少しでも甘いものはないかと探っているのだろう。まあ、気持ちは分からんでもないけれどね。


 ◇◇◇


 カウンターに戻ると、ミルシアさんが座っていた。メイド服で。

「……いやいやいや」

 こういうのって、もうちょっと描写を増やすというか、時間を増やすというか、焦らすべきじゃないのか? お披露目とかあっても良かったのでは?
 などと誰に向けてのツッコミで誰目線のツッコミなのか、最早分からなくなってしまったツッコミをしてしまったところで、遅れてメリューさんがキッチンからやってきた。

「何していたんだ、君たち? 遅いぞ。それとも私に言えないような何かあったのかな?」
「いや、そんなことは……」
「ところで、コーヒーを淹れてくれていたんだね。いやあ、流石ウェイター。助かるよ」

 あ。
 そう言えばコーヒーを淹れていたのだった。すっかり忘れていた。
 まあ、抽出も終わってある意味ちょうど良いタイミングと言えるかもしれないけれど……。
 と、思ったところで甘い香りが鼻腔を擽った。

「……この香りは?」
「あれ? 言っていなかったっけ。シュテンが甘いものを食べ尽くしちゃうからさあ、新しいお茶菓子を作っておいたのよ。さて、ちょっとばかしのお祝いだけれど、これでも良いかな? ミルシア」
「別に。こちらはそれについて文句を言える立場ではないのだし。寧ろ祝ってもらえて……とても有難いとも言えるのかな。こうも簡単に受け入れてくれて、とても嬉しいというか」

 そりゃあ、まあ。
 ただの見ず知らずの人間とは、ちょっと違うし。
 クッキーにはチョコレートチップが入っている。サイズがちょっと不均一なのが、手作り感を後押ししていてまた良い。

「それじゃ、コーヒーカップを持ってもらえるかな?」

 全員にコーヒーカップが行き届いたことを確認して、メリューさんは言う。
 それを合図に、全員カップを持ち上げる。

「それじゃあ、新しいメンバーがやってきたことのお祝いということで――乾杯!」
「乾杯!」

 新しいメンバーだ。
 それはどんなことよりも楽しく、嬉しいこと。それは当たり前のことだと思う――そう思いながら、俺はコーヒーを啜るのだった。



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