第二章28
綺麗に纏まったことは纏まったのだが、それで終わってしまうのは物語の特性だ。
ロキはあの後、王城の天辺にて大演説するに至った――やはりというか何というか、こうもあっさりと結末をむかえてしまうと、ケジメを付けなくてはいけないのだろう。
「――今日、この日を以て! 我々の革命は終焉を迎える! 白き女神の支配から、我々は脱するのだ――」
色々と御託を並べてはいたが、しかしロキも不完全燃焼は否めないだろう。
今まで目的としてきた革命が、こんな呆気なく幕を下ろしてしまったのならば、猶更だ。
しかし、ロキはそれを気にしないように演説を行った。具体的にはそうであると気付かせないため――とも言えるだろう。何故なら白き女神が実は居なかったなどと話が出回ってしまったなら、それを倒したと宣うレジスタンスの地位が揺らいでしまう。
いや、揺らぐどころではないのかもしれない……。その事実一つが判明しただけであっという間に崩壊する危険性すら孕んでいる。
「……ロキは凄いわね」
言ったのは、ウルだった。
お前だって、少しばかりはロキのことを理解していたはずだろう?
「いや、そうでもないわよ。最初はあんな計画、失敗しちゃうんじゃないかしら……なんて思っていたぐらいなんだし」
だったら反対してくれ……クレイジーな体験がお望みなら自分一人でやって欲しい。
「あらあら。……けれども、イズンちゃんにしても今回は成功だったんじゃなくて? 敵にしていた相手をとっちめた訳だし」
「とっちめたも何もないよ……。ありゃあ、雲隠れしたと言っても過言じゃない。まあ、何も分からなくなった……ってことじゃないがね」
まだ、繋がっている。
繋がっていると分かっている以上、前に進めることが出来る。
それだけ分かっているなら、上々だ。
「それなら良いでしょ。ラフティアはこれから、新しい歩みを始めることになる。それは間違いないでしょう。けれども、私達はここで歩みを止めてはいけない。……そうでしょう?」
分かっているよ。
ウルに言われなくても、私は私の生き方をするだけだ。ただ、それだけ。
「目的地は分かり切っている。……最終目的地は、聖地ハイダルク。そして、そのために倒すべき相手は、全部で六人。なあに、終わりが見えてしまったのは嬉しいようで悲しいようでもある。終わりが見えるということは、必ず終わってしまうということの裏返しでもあるのだからね」
「そりゃ、その通りではあるでしょうけれど……。終わってしまうことは良いことなのではないのかしら? だってそれで復讐は終わるのでしょう。だとしたらその先に待っているのは――」
「――何が待ち受けているのだろうね。そりゃあ最早誰にだって分からないよ」
幾度か考えたことはある。
しかしながら、大抵結論はいつも同じ物だ――復讐を終えた先に待ち構えているのはただの無ではないか、ということだ。
何もない。ただの無――つまりは、その先のことは何一つとして考えられない。そういう未来が待ち構えているのだろう――ということ。
「分からないとは、思い切りが良いけれど……でも、少しは考え直した方が良いのではなくて? この世界だって、捨てた物じゃない――それは今まで旅を続けてきて、少しは分かっていることでしょう?」
そうかな。
そんな考えは、とうの昔に捨て去ったような気がするがね。
◇◇◇
出発の朝と言ってもそう名残惜しいことはないのだが、今回ばかりは違った。
外に出ようとすると、スカディが入り口の前に立っていた。
「……私に何の挨拶もなしかい? ウル」
「挨拶と言われてもねえ。別に今生の別れ、ってことでもないのだし。それとも、私に惚れたかしら?」
「自惚れるな。そんなことある訳ないだろうが……。この街に住んでいる人間として、一言言っておきたかっただけのことだよ」
「何? 感謝ならもう腐るぐらい聞いたが?」
「どうせ腐るなら何回聞いたって変わりゃしないでしょ。……とにかく、有難う。あなた達がレジスタンスを助けなかったら……きっとこんな未来にはならなかったと思う。だから、そこは凄く感謝している」
「感謝したところで、未来が安泰とは限らないよ。……これからの未来を切り開くのはあんた達だ。私達はただそのアシストをしただけに過ぎないのだし」
「それは……分かっているよ。住んでいる人間が、この街の将来を決めること。レジスタンスが一応のトップになった訳だけれど、これが永遠に続くとも限らない。けれども、争いが続くようでは白き女神の思う壺だと思うから」
そこまでは言っていないが、まあ、間違いではないだろう。
レジスタンスのリーダーであるロキが、ああも大々的に発言をした以上、暫くは彼がこの街のトップになることは間違いないだろう。
しかし、元々白き女神をトップとして動いていたシステムをそう簡単に変えることなど出来やしない。もしそれをするなら……システムそのものを撤廃してしまうか懐柔するしかないのだ。
「それじゃあ、またね」
スカディは笑顔で、私達を見送った。
ならばその笑顔に、答えなくてはならない。
私達はそう思いながら、ラフティアの街を後にするのだった。
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