二人揃って初めての外出は、遺跡調査と相成った。
 ハイダルク王国の中でも、北方のエリアはあまり人間が住んでいない。それもあって、未開拓の領地が未だに存在しているのだ。
「……リュージュさんは、レオナード遺跡についてどれぐらい知っていますか?」
「レオナード遺跡って名前は知らないけれど、レオナードって名前なら……。確か、ハイダルク王家の中でも変わり者だったと記憶しているけれど?」
「……一応、僕の先祖に近い存在でもあるので、あまり言えませんが、確かにその通りです。レオナード・フォン・リルスベルグ、かつてハイダルク王国を支配し、余生を学業に費やした、王家の中でも変わり者です」
 言っているじゃねえか、とリュージュは言おうとしたが、すんでのところでそれを堪える。
「で……そのレオナードがどうかしたんだ。あの王子、遺跡の名前になるぐらいの偉業でも達成したのかな?」
「あなたの中では王子という認識なのかもしれませんが……レオナード王は、様々な文化を守ってきた人間であると言われています。それに対する知識も豊富で、一流の学者と普通に話を交わすことも出来たとか」
「へえ……凄いんだな、そのレオナードは」
「凄かった、です」
 ボイドは俯いて、話を続ける。
「幾ら凄い人間だったからって……死んだらそこでお終いですから」

   ◇◇◇

 レオナード遺跡は、ハイダルク王国北側に位置する港町の近くにあった。途中妖精の棲まう森がある神聖な村エルファスを経由してそこまで向かった。エルファスの人々は、初めて出会った魔女に少し驚愕しつつも、あくまで普通の人間として接した――多少の畏怖はあっただろうが――それでも、彼女はそれを是とした。人間とはそうあるべきだと思っていたからだ。
 レオナード遺跡は深い森の中にあった。そこまで向かうのはかなり大変な道のりだったが、それでも二日かけて漸く辿り着いた。
 森をかき分けるように進む道を抜けると、突然姿を見せる城跡。
 それがレオナード遺跡の全貌だった。
「……あのお坊ちゃんがこんな城を作ったのかね」
「あくまでも、噂の範疇を過ぎませんが。それでも、レオナード王は素晴らしい王だったと記録には残っています。あ、読みます? 僕が手作業で模写(コピー)した資料なんですけれど」
「見せて貰おうか」
 ボイドが手渡してきたのは、わら半紙数枚で構成された紙束だった。その紙には、ぎっしりと文章が書かれている。その内容を見てみると、それはある男の日記であることが推察された。
「これは……」
「レオナード王が書き記した日記です。レオナード王が即位する前から……亡くなる数日前まで書かれています。そして、これはある一幕を切り取ったものです」
「ある一幕?」
 リュージュは文章を読み進める。
 そこに書かれていたのは、若き王レオナードが苦悩する一面だった。レオナードは王になって久しいが、若くして王になったために、味方という味方が居なかった。だから常に彼は、命を狙われる危険があった。とはいえ、彼は大国の王。そう簡単に貶めることは出来ない。そして、それにうつつを抜かしながらではあったものの、何とかして、王位を確保してきていたのだが――そこで、彼に悲しい知らせが舞い降りる。
「この日記の数日前、彼の弟が捕まっています。理由は殺人。そして相手は……当時の右大臣です。そして、そこから明らかになったのは、左大臣と彼の弟が共謀して右大臣を殺したという事実。それが彼に重くのしかかります。そして彼の血筋を絶やすべきだという意見が、城内だけではなく、国民にも広がっていきます」
「城内は分かるとして、どうして国民にも広まったんだ? そういうのは普通、表には出ないものだろう?」
「普通ならば、確かにそうなのですが……しかし、レオナード王には味方が居なかったんです。そして、レオナード王の王位を良しと思わない人間が、それを国民に広めていったんです。そうすれば、レオナード王の地位も揺らぐはずだと思って」
「それをしたのは、」
「何でしょう?」
「裏に、王族が居たんじゃないのか? 政争は、意外にもシンプルだ。だからこそ、小難しくする必要がある。……どうだ? 居たんだろう、裏に」
「……流石は、全知全能の魔女。何でも分かりますね。ええ、そうです。その通り。確かに、王族が裏で操っていました。彼はその後、レオナードを王位から陥落させ……やがて彼が王となります。追放されたレオナードは、一応王族だったこともあり、国の果てと呼ばれるこの地に幽閉させられました」
 




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