「国の果て……ね。私から言わせてみれば、どれも辺境の地という認識が強いのだけれど。特に、ハイダルクはそういう価値観を持った人間がとても多いのよね」
「それは、あなたの勝手な価値観ではないですか……? まあ、それはさておき、ここは昔から果ての地と言われています。ここには何もない。言ってしまえば、何もないがある……みたいな」
「禅問答みたいな物言いね」
「ゼンモンドーとは?」
「古い言葉よ。忘れて」
 リュージュは景色を眺めながら、何かを考える素振りをした。
 それを見たボイドは、リュージュが何かを語り出すのではないかと思い、笑みを浮かべる。
「何か思い出しそうですか?」
「ないね、まったく」
「……それよりも、一つ気になったのですが」
「ん?」
「どうして、あの子達を連れてきたんですか?」
 リュージュとボイドから少し遅れて、ミリアとラルドが色々と見ながら付いてきていた。
 それについて、リュージュは釈明する。
「別に悪いことでもあるまい? それとも、王子サマは子供が嫌いだったかな?」
「そうでもないですよ。……実際、僕はそこまで子供は嫌いじゃありません。腐っても王族ですからね」
「自分で『腐っても』なんて言うかね、自己評価が低いったらありゃしない。……それより、この遺跡にやって来た理由は? 『喪失の時代』について調べたい、なんて言っていたが少なくともここはそれ程古い建物でもないだろう?」
「その通りです。レオナード王が生きていた時代は、喪失の時代には遠く及びません。けれど、この遺跡の地下です。そこにあるものが……喪失の時代に出来ただろうと言われています。リュージュさん、あなたはオーパーツってご存知ですか?」
「オーパーツ? ……ああ、確かその時代には存在するはずのない高度な技術を持った遺産のことだったかな。それがいったいどうかしたのか?」
「そのオーパーツがあるんですよ、この遺跡に。……あなたは知っているかもしれませんが」

   ◇◇◇

 レオナード遺跡――その大部分を占めるレオナード邸は古い建物ではあったものの、定期的に掃除されているためか、そこまで荒れた感じは出ていなかった。
「随分と立派な屋敷に住んでいたんだな、あの王子は」
「王子というか、実際は国王になった人間でもありますけれどね……。しかし、彼は優しすぎたんです。だから、使われるだけ使われて、追放されてしまった。きっと彼は失意の内に亡くなったのだと思います」
「……だろうな」
 リュージュは階段を登る。それを見たボイドは彼女を引き留めた。
「あっ、待ってください。僕達が行くのは地下ですよ」
「分かっているよ、それぐらい。私だってここに初めて来たんだ。様子ぐらい見せてくれても良いんじゃないか?」
「……まあ、それもそうですが」
 ボイドはあまりリュージュと口喧嘩をしたところで意味がないと悟っていたようで、あっさりとリュージュの意見を受け入れた。
 ミリアとラルドは二人の話を聞きながらも、退屈な様子を隠し切れなかった。
「……おい、何しているんだ、ミリア、ラルド。置いていくぞ」
「い、嫌だよ、こんなところで置いて行かれるのは……」
「何よ、ラルド? 怖がっているの? 私は全然怖くないわよ、こんな場所」
 と、ミリアが言ったタイミングで棚に載っていた何かがバランスを崩して床に落下した。落下したそれはガラスで出来たものだったためか、音を立てて粉々に割れてしまった。
「うわっ! ……何よ、物が割れただけ?」
 ミリアはラルドに抱きつきながらも、強い言葉でそう言う。
「……ミリアだって怖がっているくせに」
「何よ? ……何が言いたいのよ。言いたいことがあるなら、言えば良いじゃないの」
「別に何も言っていないだろ。ただ、ミリアも怖いことはあるんだな、って」
「まあまあ、二人とも、あまり喧嘩はしないで……」
「ボイド、別にその二人に構うことはないぞ。私だってその二人のことを知っている訳ではないが……人間のことを知らない訳でもない。まあ、お前よりかは知っているよ」
「しかし、喧嘩することで貴重な物が破壊されたらそれはそれで困るので……」
「そういう問題か……」
 リュージュは溜息を吐きながら、再び階段を登り始める。
 それを見たボイドも階段を登っていく。時折二人の様子を眺めるために、後ろを向きながら。





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