「……しかし、こう見ると普通の屋敷だな。ちょっと古い装飾品が目立つが」
 リュージュの言う通り、このレオナード遺跡は、大した歴史的価値を持つ遺跡ではない。――ただしそれは、地上部分を見た場合に限る。
「この遺跡……本来ならば、ただの王族の土地として休ませているだけに過ぎないのですが。それでも、違うのが」
「さっき言っていた、オーパーツ」
「ご明察」
「ご明察も何も、言っていたことだろう……」
 リュージュはボイドの話し方に慣れた感じがしてこない。だからこんな感じでずっと彼のペースに従って話をしているだけに過ぎないのだが。
「いずれにせよ、先ずはそのオーパーツを見ていただきたいんです。もしかしたらリュージュさん……あなたも知っているものかもしれませんし」
「そんなこと言われても、私はそれ程詳しくないぞ? せいぜい人よりも長く生きただけだ」
「その『長く』がどれぐらいのことを指しているんですか……。まあ、良いです。取り敢えずはっきりと言えることは、あれを見た時、我々はとても驚いたということです。何せこの時代の技術でさえも、絶対に作れない代物ですから……」
「勿体ぶらないで、さっさと見せて貰えないかしら。その、オーパーツとやら。私を楽しませてくれるような内容なんでしょうね?」
「……そりゃあ勿論、と言いたい所ですけれど、しかし、リュージュさんの好みを全く知りませんから。もしかしたら、合わないかもしれませんし」
「……出来ることなら最初から自信を持って貰いたかったけれど。でもまあ、見てみるだけなら特に問題はないでしょう? だったら、向かいましょう。ええと、確か、地下室にあるんだったかしら?」
「そうです。地下室にそのオーパーツは眠っています。……そんな慌てなくて良いですよ、オーパーツは逃げませんから」
 別にそうは言っていないだろう。リュージュはそう言いたくなったが、それ以上は物事が解決しそうにないから、特に言わないようにした。ただ、それだけのことだった。

   ◇◇◇

 地下室へと続く階段は、隠されているという訳でもなく、二階へと続く階段の裏に置かれていた。
 壁に蝋燭がかけられており、ある程度視界が確保されている。
「……これだけを見ると、この先にオーパーツがあるとは到底思えないのだが?」
「まあまあ、そう言わずとも……。先ずは中身を見てみないと何とも言えませんから」
「中身に拘るようだが、いったい何が隠されているというのだ? オーパーツというぐらいだから、今の技術じゃ到底作れないものだとは思うが」
「『偉大なる戦い』ってご存知ですか?」
「……愚問だな。それを知らない人間が居るとでも? お伽噺だろうが、学校の歴史の授業だろうが、なんだろうが……いずれにせよ、この世界に住む存在ならば誰しもが知る歴史の大見出しだったはずだ」
「ええ、あなたに今更言う必要はないでしょうが……偉大なる戦いの記録は殆ど残っていません。当然ですよね、何せ僕達が住んでいる時代よりも遙か昔の出来事だ。きっと文字の記録が残っていたら、世界がひっくり返るぐらいの出来事になるでしょうが……」
 こつ、こつ、こつ。
 階段が終わると、その先に広がっているのは細い通路だった。
 こちらの壁にも蝋燭がかけられていて、人が通ると勝手に明かりが点くシステムになっている。大方魔法を使っているのだろうが、リュージュが活躍していた時代にもあったシステムが今でも使われているというのを理解して、一笑に付した。
 ボイドの話は続く。
「この通路、とても長いんですが、何処まで続いているんでしょうね? ……あ、一応言っておきますが、この通路も発掘当時そのままで遺してあります。だから、この蝋燭を勝手に点けるシステムも分かりません。何でも、重さを感知して油の量を調整したり、人が通ったら火打ち石をぶつけて火種を作ったりしているそうなのですが……しかし、それが遺跡が出来た時に実現出来たか、と言われると」
「実現出来るだろう。私だって……私だって、これを見てきたことがある」
「これを? 実物を、ですか?」
「ああ、そうだ。何度も言わせるな。私は一応、魔女だからな」
「……そうだった、そうでした。そうでしたよね。あなたは魔女だ。だから、魔法には詳しいはず……。ですが、幾らあなたでもこれには驚愕すると思いますよ」
 やがて、扉が現れた。
 石なのか木なのか分からない、とにかく硬い材質で出来た扉だった。今まで来た通路は全て石で出来ていたが、ここだけは違う。石のようで、石ではない。自然に作りだそうったって、そう簡単にはいかない。人間の英知が結集しても出来るかどうか分からないそんな代物が、目の前に広がっていた。
「これは……いったい?」
「分かりますか? ……世界最後の魔女、リュージュさん」
「私が分かるのは魔法に限った話だ。こんなものは……見たことがない」
 




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