第二章2


「さて、ご飯も食べたところだし、こちらは退散といこうかね」

 カップラーメンの汁も飲み干して、レディ・ジャックはそう言った。何というか健康に悪い感じは当然見受けられたけれど、それをアドバイスするつもりはない。
 どうせ他人の身体なんだから、それで何かあってもぼくに被害は及ばない。
 良く言えば自己責任だけれど、悪く言えば無責任でもある――本来は他人のことも気遣って、気にかけてくれるのが当たり前だなんて思っている人間も少なくはないけれど、しかしてそれが全員そうであるかは決まっていない。ぼくは少数派だと思っている。多数派だったら、もっとこの世界は良くなっているだろうから。

「人間の世界は偏っている……というのは、良く語られる常套句だよな。でもそれを言っているのも人間なんだから、そこはツッコミどころと言っても良いのかもしれないけれどね。人間はもっと傲慢であるべき――とまでは言わないけれどさ。あたしは結構好き勝手に人生を楽しんでいる方だからねえ」

 寧ろ、レディ・ジャックが未だ人生を楽しめていなかったら、それはそれでどうかと思う――不満が消化しきれていない可能性は否定出来ないけれど、他人の人生を勝手に切り取っておいてそんな不満ばかりぶちまけられても困るけれどね。さらに犯罪が加速するだろうし。
 レディ・ジャックは退散するとか言っていた割には、テレビを見ていた――ぼくの部屋には、家族から貰った二十四型の液晶テレビが置いてある。当然地デジも衛星放送も見ることは出来るし、NHKもちゃんと契約している。ってか、NHKに至ってはここに来た当日に訪問契約された……。もしかして監視でもしているのか、或いは役所あたりと連携しているのか知らないけれど、もうちょっと余韻があっても良いんじゃないだろうか?

「……テレビも久しぶりに見るが、変わり映えしないねえ。あたしの隠れ家にはテレビはないからさ。見ることもないし」
「テレビを見なかったら、どうやって情報を得ているんだ?」
「今はインターネットの時代だろ。昔に契約していたスマートフォンでチェックしているんだよ」

 スマートフォンって。
 それ、契約の時職業はなんて書いたんだろうか……。流石に殺人鬼とは書いていないだろうし、無職とでも書いたのか。

「いいや、適当に偽装したよ。今は金さえ払えばその辺りはやってくれるからね」

 もっとアウトな方向だった。
 だったら未だ無職でやってくれていた方が良かった……。

「スマートフォンでもテレビ番組は見ることが出来るし、ニュースも確認出来る。それ以上のことは分かるのだけれど、しかしあたしはどうも機械音痴なところがあってさ……。結局、あんまりアプリを使いこなせていないんだよな。ほら、聞いたことがあるだろ? 人間がスマートフォンを使っているんじゃなくて、スマートフォンが人間を使っているんだ……って。それってつまり機械の逆襲だよな。一歩間違えればアイアムレジェンドの世界観だぜ」

 ウィル・スミスになってしまうのか、全世界の人間が……。

「あー、でも夜中に映画はやっているんだな。今日の映画は……『エイリアンVSアバター』か」

 レディ・ジャックはテレビのリモコンを操って番組表を確認している。ここ、ぼくの家なんですけれどね? 何か凄い我が物顔で居るようだけれど、まさかここにずっと住むつもりじゃないだろうな。
 エイリアンVSアバターについては、見たことがないので説明は省くが……確かキャッチコピーが話題になった奴じゃなかったかな。そのキャッチコピーが――。

「――勝手に戦え、って凄いキャッチコピーだなオイ。考えてキャッチコピー付けたんだったら天才だな――考えて付けていなくても天才かもしれないが」
「そのキャッチコピーで時折話題には上がってくるし、成功ではあるんだと思うな……。それがセールスに繋がったかどうかまでは知らないけれど」
「深夜にやるぐらいだからニッチな需要はあるだろう? あたしはエンタメには詳しくないけれど……エイリアンは良く様々なキャラクターと戦わせることが多いと聞いたことがある。思えばこういう映画が好きな知り合いが居たものだよ。毎晩くっだらねー話ばかりしてさ……。幸せだったかもしれねーな、あの頃は」


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