第二章8


「………………、」 「………………、」  沈黙。  無言。  無音。  そして……消失。 「……話を戻すけれど、レディ・ジャックについてはどれぐらい情報収集しているのかな?」  流石に本人に会ったことがある――などとは口が裂けても言えやしない。 「ううん、そうだね。どれぐらい知っているかと言われると、流石に完璧までは言えないけれど、でも最近の殺人鬼の中では詳しい方だよ、多分」 「そう何度も殺人鬼が出てたまるものですか。そうなっていたら、この辺りの人口はもう二割減っているよ。……それは置いておくとして、取り敢えず言いたいことは分かったよ。君が殺人鬼についてはあまり詳しくないことを」  そういう結論になったんだっけ?  あまり話を追いかけられなかったから、そこについては理解していないのだけれど。 「話を自分で始めたんだから、ちゃんと理解しておいた方が良いと思うけれど……、そういや、レディ・ジャックについてだけれど意外とこういうところの情報が早かったりするよ」  そう言ってスマートフォンを操作し始める高浜。  もしかしてインターネットのまとめサイトの方が詳しかったりするのか?  だとしたらわざわざ図書館にやって来た意味が薄れてしまうのだけれどな。 「図書館にやって来た理由については、今ここで語るべきではないと思うけれど……ほら、これこれ」  そう言って見せてきたのは、ユーチューブチャンネルだった。 「オカルト系ブイチューバー……?」 「あれ? もしかしてブイチューバーとかその辺り知らない感じ?」  馬鹿にするなよ、名前ぐらいは聞いたことがあるよ。ユーチューブで活動する人間がユーチューバーで、そこにバーチャルが付くからブイチューバーなんだろ。 「……そんな、誰もが知っているようなことを堂々と言われてもねえ」  深い溜息を吐かれたが、そんなことはどうだって良い。  で、そのオカルトブイチューバーが何だって? 「いや、系が抜けているから。……ブイチューバーもただのガワが可愛いだけじゃ生きていけないようなのよね。だから、ブイチューバーにも属性がどんどん盛られていったらしいんだよ。烏天狗とか船長とか動物愛護団体とか、最近は秘密結社の総帥とかも居たかな?」 「……ごめん、何を言っているのかさっぱり分からないんだが?」 「でもそれが事実だからねえ。そこは諦めるしかないよ。……で、そのブイチューバーにも属性がある訳」 「属性? 職業ってことか?」 「まあ、近いかな……。そのブイチューバーは、確か怖い物が好きな学生、だったかな? さっきの四人に比べたらパンチは弱いけれどね、でもそれ以外もインパクトは強いらしいし。何処から引っ張ってくるのか分かんないけれど、インターネットでもあまり出回らないような情報が出てくるのよねえ。あまりに唐突過ぎて、かなりの確率で賛否両論になるぐらいには」  駄目じゃねえか。  そこについてはつい突っ込んでしまった。  あまり突っ込まないつもりだったのだが……。 「そのブイチューバーについて、一応話を聞いておきたいな。レディ・ジャックの話を持ち掛けてくるということは、そのブイチューバーもレディ・ジャックの話をしたんだよな?」 「そりゃあもう、事件が起きた次の日の配信なり動画はレディ・ジャックで持ちきりよ。……当たり前かもしれないけれど、人間というのはセンセーショナルな物に惹かれることが多いからね。ユーチューブ動画を見たことがあるなら、大体再生数が伸びている動画のサムネイルに共通点が見えてこない?」 「そこまでユーチューブを見ていた訳ではないからなぁ……。そんなに共通点が?」 「大きな共通点があるのよね。詳しいことは忘れたけれど……、それを守れば再生数は伸びるだろうと言われるぐらいの要素なのよね。そうして、その一つとして挙げられるのは、タイトルとサムネイルをセンセーショナルな物に仕立て上げる――ということらしいのよ。わたしは動画を作ろうとは思わないけれど、あなたが作るならアドバイスしてあげても良いわよ? その代わりアドバイス料としてその動画で得られた収入の一割を貰うけれど」  ユーチューブを始める気は一切ないから安心しろ。さっきも言ったかもしれないけれど、ぼくは現実の切り取りをして金稼ぎしようとは思っていないからな。楽して稼げるのが一番良いんだよ――出来るかどうかは置いといて。

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