第二章 よふかし指南 5
人間の寿命を三日吸い取っている、ということだと思うのだけれど、それについてはどう回答するつもりなんでしょうね?
「どうなんだろうね……。それについてはあまり語るべきところではないと思っていたけれど。吸血鬼なんて、意外と町中を歩いているものだよ? 私の知り合いでも結構溶け込んでいる吸血鬼は居るからね」
「ってことは、あそこに居る人も、あそこに居る人だって、皆吸血鬼の可能性が否定出来ない――と」
「まあね、そういうところ。……でも、吸血鬼にはその違いが分かるよ。もっと言ってしまえば、ある法則性を理解している人であれば、ね」
法則性?
「分かっているようで分かっていないかもしれないけれど、つまりね……、吸血鬼であることは意外とわかりやすい法則性に従っている、という訳なのさ」
「吸血鬼の法則性って、何かあるんですか?」
「考えてみてごらん。意外と見つかるもんだよ、吸血鬼の法則というのは……」
何だろう……、そう言われたって全然正解は見えてこないのだけれど。
それとも、正解はないってことなのだろうか?
いや、それはそれで大問題だ。実際、そうだとしたらクレームを入れたくなる。
そして、梓さんはきっとそんなことをしないだろうな、などと思っていた。
何故そう思えるか、って?
勘だよ、勘。
「吸血鬼というのはね……、実は独特の匂いを発している。血腥い匂いに近いのかもしれないけれど、そういった匂いだ。けれども、それって問題があると思わないか? 日常生活を送っている以上、その匂いによって怪しまれる危険性だってある訳だ。ま、吸血鬼によっては敢えてその匂いを残したまま生活しているのも居るのだけれどね。私はきちんと香水で匂いを消しているけれど」
言われてみれば、甘い香りが漂っているような、そんな感じがした。
けれど、普通香水って付けるものじゃないのか……。
だから、意外と香水を付けているからといって、あまり違和感を抱かないのかもしれないけれどね。
実際、吸血鬼だっていうのは、そこからは判断がつかないのだろうし。
「……一言、良いですか?」
「何だい、少年。どんな質問だって答えてあげるよ。今の私は上機嫌だからね!」
さいですか。
だとしても、質問する内容はたった一つしかないし、それによって機嫌を損ねる可能性すら有り得たのだけれど……、ま、良い。それについては追々考えよう。結果が出てから決めるのも、悪くない。
「吸血鬼が吸血鬼を分かるとして……、吸血鬼を増やすにはどうするんですか? 吸血鬼って、文字通り血液を吸う生き物だと思いますけれど、その行為で同じ吸血鬼を増やしていく、なんて話はファンタジーの世界で聞いたことがあります。そして、それは現実に有り得るのか」
「……長いねえ、長い話だ。もう少し、簡単に話を進めることは出来ないのかな?」
ええと、つまり。
僕は何を言えば良いんだろうか?
何を言えば――この後の会話が上手く滞りなく進めることが出来るのだろうか。
そう考えた結果、やがて一つの結論へと辿り着いた。
「……つまり、吸血行為によって吸血鬼は増殖していくんでしょうか?」
「さあねえ」
梓さんは、口を大きく歪める。
まるで赤ずきんに、どうしておばあさんの口は大きいのと聞かれた、狼のような感じだった。
そうなると、差し詰め、今の僕は赤ずきんか。
ま、それも悪くないが――。
梓さんは立ち上がると、僕の背後に近寄った。
首元を見つめると、顔を近づけて――呟いた。
「……試してみるかい? 何なら、今ここで」
「………………っ!」
僕は、考えた。
このまま梓さんに吸血されて――自分は吸血鬼になってしまうのか? ということを、だ。
吸血鬼になってしまうのも、何だか悪くないような気もする。
だって吸血鬼になれば、少なくとも寿命は延びる訳だ。尤も、ちゃんと吸血をして、人間の寿命を吸い取らないといけないのだろうけれど、僕はそれぐらい出来るだろう。
ニンニクは元々嫌いだし、十字架だって避けて通ることは出来る。
問題は日光かな……。ま、夜型ではあるけれど、全く昼間出歩けなくなるのはちょっと痛いかな。二十四時間営業のお店だって限られている訳だし、そこに通い詰めると色々面倒だ。ネット通販や出前を活用すれば良いのだろうけれど、出費が増えるのは間違いないし、僕はそこまで裕福でもない。お金に余裕がある、ただのニートだからね。
首元に近づいて、吐息が肌に触れる。
きっと今、梓さんは僕を吸血しようと考えているのだろう。
そういえば、僕の夕食って何だったっけ? ハンバーグ弁当とサラダだったな……、ニンニクは入っていなかったかな? エナジードリンクは飲んだ記憶があるけれど、あれにニンニクは入っていなかったよな? などと、そんなことを考えていたのだけれど――。
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