第二章6
レジスタンスのリーダーは、当然表に出て活動をすることはあれど常にそうしている訳ではない。
致し方ないことではあったが、しかし実際これから出会うという人間が、緊張感を持っていなかったら何の意味もない。
「……レジスタンスとは仲良いのか? だとしたら、白き女神からも目を付けられても」
「そんなことはないよ。そりゃあ、あくまでも表向きは、って話だね。仲良くしていると目を付けられてもおかしくはない。白き女神だって自分の求心力を下げる訳にはいかないし、そこについては一般市民だって分かりきっている話さ。けれども、私達だって分かっているんだよ。……この疫病を乗り越えようとしない白き女神は不要だ、って」
不要ねえ。
そこまで言い切られちゃうんじゃあ、必死になるわね。実際、為政者は国民からの忠誠心が失われてしまえばもうお終いと言っても過言ではない。しかし、それをそのまま堅持していたら自分が政治的権力を握れなくなってしまう。良くて政権交代、悪くてクーデターによる断罪だ。
それをしないためにも、無理矢理にでも忠誠心を高めようとする、或いは反抗されないようにするのが為政者のやり方だ。為政者というよりかは独裁者とでも言えば良いだろうかね。
「……あんまり物騒なことは言わない方が良いかと思うけれどねえ? スカディ、次に出会った時は打ち首とか辞めてよね?」
「本当に物騒なことしか言わないよね、あんたは……。それなら安心しなさい、レジスタンスとやりとりはするけれど、実際に参加するつもりはないから。私は今の状態でも悪くないと思っているからね、そりゃあ遅いと思うことはあるけれど……」
「不満があるなら、立ち上がろうとはしないの?」
「……あんたは、強い人間なんだね。さっきから話を聞いていると、そんな感じがするよ。或いは、自分の意思を強く持っている人間とでも言えば良いだろうね。そういう人間は悪いとは言わないし、そうでなければ世界は回らないから致し方ないけれど、しかしこれだけは言っておくよ」
「……はは。何だか怒られそうな感じがするから聞きたくないがね」
「……弱い人間には、そういう意思すら出来ないものなんだよ。覚えておいてよね」
まさか有無を言わせずに押し通されるとはね。まあ、致し方ないか。
「弱い人間は悪いことではないわよ。だって、そうじゃないと世界は回らないでしょう? 誰もが強い人間ばかりだと、息苦しい世界になってしまう。けれど、それは良くない。だって息苦しい世界になってしまったら誰も深呼吸出来なくなる。そうやって皆が酸素不足に陥って、何も考えられなくなる」
「……つまり?」
「つまり、別に気にしなくても良いってことよ。世界はどうなったって弱い人間と強い人間で生きていくことには変わりない。けれども、強い人間が弱い人間を虐げてばかりではいけないの。いつかは逆転されることもあるだろうし、弱い人間に付く強い人間だって居るんだから。でも、だとしても平和を永遠に享受することは出来ない。当然よね、人間の価値観というのは統一出来ないんですから」
「……おや、まさかこんな方も居るとは」
声を聞いて、私達は入り口に目を向けた。
そこに立っていたのは長身の男だった。青い髪をしていて、何処か柔和な顔立ちをしている好青年だ。見た目だけ考えるならばガールフレンドが大量に居てもおかしくはなさそうな感じがする。遊び慣れてはいないだろうが。
「何だか勝手な値踏みをされているような気がするけれど、気のせいかな?」
テーブルの周りにある一つ余った椅子に腰掛けると、彼はニコニコと笑みを浮かべて、
「いやはや、まさか旅芸人のウルさんに会えるとは思いませんでしたよ。今日はどうしてこちらに? 確かサーカスはここには暫く来ないはずですけれど。だって疫病が蔓延していますからね、何もかも中止なり延期なりになって人々の不満は溜まる一方ですから。ここはあなたがいきなり大道芸を披露してくれると嬉しいんですけれどね。ま、そこに居る人間の一人でも疫病に感染していたら、全員が感染する可能性すらありますけれどね」
「それは出来たらご勘弁願いたいところねえ……。だって、私は笑顔を届けたいだけであって、苦しみを届ける訳ではないし、それをしたいとは思わないもの。いつかそういう危険が過ぎ去ってしまって、それでも私を望む人が居るのなら、その時は是非大道芸を披露してあげるわよ」
「……はっはっは。流石は、旅芸人として長く働いてきただけのことはある。頭もそれなりに良いそうだ。そうでなければ話が上手く進まないから、私としてはそれで良いんですけれどね」
急に笑い出したのでどうしたのかと思っていたが――どうやらこちらのことを試していたらしい。
ウルは何を考えているのか分からない時がある。だからそれを上手く今回は活用したと言えよう。しかし、そうだとしてもウルを何処まで上手くコントロール出来るか――という話ではあるが。少なくとも現状はウルの暴走が良い方向に行っているだけでしかない。
「それじゃあ、改めて話を進めましょうか。私はレジスタンスのリーダー、ロキと言います。以後お見知りおきを」
ロキは恭しい笑みを浮かべてそう言った。食えない男だ。何を為出かすか分かったものではない。こちらを利用するだけ利用して後は吐き捨てようと思っているのではないだろうか。
「ふん、こっちを試そうとしていたのはちょっと嫌な気分になるけれどね。それとも、これがレジスタンスのやり方という訳?」
「いやはや、すいませんね、ウルさん。あなたを試したということについては否定しません。寧ろ我々を守るためには致し方ないことだということをご理解ください。当然ではありますが、レジスタンスは今の白き女神――為政者とは相容れぬ存在です。だからこそ、為政者との関わりを持ってはいけないし、繋がってしまった瞬間こちらにとっては死を意味する。……だからこそ、試したというよりかは繋がっていないかを確認したまでです。それでも不快感を拭い去ることは出来ませんね。……それについてはお詫びします」
ロキはそう言って深々と頭を下げた。
まあ、それならば仕方ないかな。確かにレジスタンスという組織は不安定だろうから、実際為政者とのフィルターのためにこうやって一回面接の機会を設けたのだろう。だとしてもいきなりリーダーがやって来るのはどうかと思うがね。仮にこれが本当に為政者の罠だったらどうするつもりだったのかね? 本当に自分の命が消えている危険すらあった訳だからね。
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