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1.最果ての街エーヴィルタウン(1)

  • 2019/09/07 19:06

 ハイダルク最果ての街エーヴィルタウンは、四方を山と海に囲まれた小さな街である。東の海を渡れば、かつて科学力で大国と謳われたスノーフォグに向かうことが出来るが、この街に港の機能は存在せず、船があると言っても、その船は漁船だらけであり、スノーフォグへ渡航出来る程の規模ではない。

「……分かっているよ。だから、俺は今忙しいんだって」

 駅の電話ボックスにて、誰かが電話をかけている。
 黒髪の少年は、電話ボックスの壁に寄りかかりながら、誰かの話を聞いているようだった。

「ああ、分かっているよ。だから、今度帰るよ、エルファスに。……ああ、分かっている。おばさんにもよろしく伝えてくれ。じゃあな」

 電話を切り、深く溜息を吐く少年。
 アヤト・リストクライム。
 ハイダルクの国家魔術師である彼は、今旅をしていた。
 何のために?
 そう言われて、彼は即座に答えることはしないだろう。或いは、はぐらかして答えるかもしれない。
 いずれにせよ。
 彼の『旅の目的』は普通の人間に開示するようなものではなかったのだ。

「……奇跡を見せる力、ねえ」

 彼は壁に貼られている紙を見ながら、そう言うのだった。

 

   ※

 

「いやあ、まさか国家魔術師であるあなたがここにいらっしゃるとは、思いもしませんでしたよ」

 国家魔術師、フェルト・アールカンバー。
 奇跡を見せる魔術師と呼ばれている彼は、このエーヴィルタウンの領主だった。

「魔術というのは素晴らしいものですよねえ。様々な英知の上に存在しているその学問は、完全にして完璧。まさにこの世の中に蔓延るには相応しい学問だとは思いませんか?」
「……ああ、そうだな。確かに魔術は完璧な学問だ」
「四大元素の上に成り立っている魔術は、かつて存在した錬金術や召喚術とは異なる学問。その魔術を使うことが出来る魔術師の中で上位である国家魔術師に立っている我々はほんとうに選ばれた存在ですねえ」
「……ああ」

 フェルトとアヤトは食事をしていた。
 アヤトがアポイントメントを取り、フェルトがそれに応じた形だ。
 国家魔術師同士の話し合いともなれば、ただの話し合いで済まないのが現状である。
 ハイダルク国に認められた魔術師――国家魔術師である彼らは、その地位を思うがままにすることが出来る。例えば、その力を利用して金銀財宝を集めることだって出来る。逆に、その力を使わずに山奥に引きこもっている魔術師だって居る。

「……ところで、噂に聞いたんですが」

 アヤトは、ある段階に踏み込んで話を続ける。

「何ですか?」
「奇跡を見せるとは、どういうことでしょうか?」
「……あなたもあの広告を見たのですか」
「ああ。見ましたよ。……で、本当なんですか? 奇跡を見せるというのは」
「ええ、例えば」

 フェルトはポケットからあるものを取り出した。
 それは小瓶だった。小瓶の中には、何かの切れ端のようなものが入っていた。

「これを使うことになりますが、宜しいですかな?」
「それは……まさか、」
「知恵の木の実」

 彼は、ゆっくりとその単語を口にした。

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