1.最果ての街エーヴィルタウン(3)
- 2019/09/07 20:31
次の日。何か進展することもなくそのまま立ち去ることになったアヤト。
フェルトの家の前に、一人の女の子が居るのが見受けられた。
「おい、何をしているんだ?」
アヤトは彼女に問いかける。
「お兄ちゃんが、この家に行ってからおかしいの!」
「おかしいって、どういうことだ?」
「何だか……記憶が抜け落ちたというか……」
「記憶が抜け落ちた?」
嫌な予感がする。彼はそう思った。
だから彼は、彼女と一緒にその家に向かうことにした。
そうしなければならない、と思ったから。
家に到着すると、青い髪の少年に出会った。
「君が、彼女のお兄さんかい?」
「え? あ、はい。そうですけれど……」
「僕は、国家魔術師だ。……何があったか教えてくれないか?」
「何があったかなんて……全然思い出せないんですよね……。ただ、お金の入るバイトがあったんです。それが……」
「フェルト・アールカンバーの家だった、と?」
こくり、と頷く少年。
彼の中で何かがざわついた感覚があった。
そして、それは直ぐに確信に変わるものだった。
「噂に聞いたことがある……。君は、記憶を失った。そうだね?」
「あ、はい。そうです。ここ数年の記憶をさっぱり失ってしまったんです……。だから、全然分からなくて……。頭をぶつけたんじゃないか、なんて言うんですけれど、それだけでそんな記憶を失うんでしょうか……。国家魔術師なら、それも分かったりしませんか?」
「うん。分かるよ。それはきっと……誰かに『記憶を奪われた』んだと思う」
「記憶を……奪われた?」
「そうだ。記憶を奪われたんだ。そして、奪われた記憶は……あるものに返還された。それは君に言っても分からない代物だ」
だが、アヤトには分かる。
噂には聞いたことがある。知恵の木の実には純正と非純正のものが存在するということを。純正は地球の記憶エネルギーを詰め込んだ代物だが、非純正の代物は――人間の記憶をエネルギーにしたものを詰め込んだ代物だということを。
「何をしでかしたんだ……あの魔術師は」
彼は家を出て、ある方向を向く。
その方向には――フェルトの家があった。
「どうやら、もう一度あの家に向かわなくてはならないようだな……。だが、その前に情報を収集しなくてはならないだろう」
そして、彼は歩き出す。目的は一つ。フェルトが人々の記憶を奪ったという証拠を集めるためだ。