1.最果ての街エーヴィルタウン(4)
- 2019/09/11 11:53
簡単に言えば、だ。
フェルトが人々の記憶をいかにして奪ったのか、は問題ではない。
問題として問われるのは、フェルトが人々から記憶を奪ったのかどうか、だ。
その証拠を集めるのははっきり言って簡単なことではないだろう。
しかし、彼には頑張らなくてはならない理由があった。
知恵の木の実。
それを手に入れることが出来れば、もしかしたら弟を取り戻すことが出来るかもしれない。
そう思えば、心が躍るというものだ。悪者退治に出る、というよりかは自分の望みを叶えるために動いている、と言えば正しいかもしれない。少し考えれば辿り着くはずの結論ですら見誤ることになるのだから。
お気軽に物事を解決することなんて出来やしない。それは誰にだって言えることだと思う。
しかしながら、それを受け入れる人間なんて実際の処いやしないのではないだろうか?
「……先ずは証拠を見つけなくてはいけない。しかしながら、そう簡単に証拠を開けっぴろげにしておくとも思えないし……」
「あら。どうかしたのかしら、お客さん?」
そういう訳で彼がやって来たのは街の喫茶店だった。
喫茶店と言ってもカウンターのみの店舗で、そのカウンターも外に出ている。雨が降ったらどうなるんだろうか、という構造の喫茶店だった。
そんな場所で提供されるコーヒーも大した味ではないだろう、なんてことを思いながら彼はコーヒーを注文していた。ここでは女性が一人で切り盛りしているようで、いつも彼女は注文に追われているようだった。メニューが多いことも理由の一つだろう。近所に食事処が見つからないこともあり、軽食の類いも取り揃えているように見える。
「……いや、ちょっと捜し物をしていてな……」
彼はコーヒーを受け取り、一口啜る。
案の定というか、想定内というか、その味はまずかった。
泥水を啜っているような味――というのは言い過ぎだが、コーヒーを水で薄めているような感覚。それを味わっていて、本場のコーヒーを味わったらきっと頭に電撃が流れるに違いない。そんなことを思いながら、彼は喫茶店の主に問いかけていた。
「少しでも良い。この街の領主、フェルトが……何らかの実験を持ちかけてきたことはないか?」
「……はあ、実験、ですか?」
「そうだ。実験だ。どんな内容だって良い。例えば、アルバイトの告知だって良いんだ」
「アルバイトの告知なら……ほら、そこに」
彼女は壁を指さす。
するとそこには一枚のチラシが貼られていた。
そこにはこう書かれていた。
『一日過ごすだけで五千エール! 連絡はフェルト・アールカンバーまで』
「……胡散臭いな」
「そう思うかもしれないですけれどね? 五千エールなんて、私の数日分の稼ぎに値するんですよ。たまに思うんですよ。人が来ない日はフェルトさんの家に行けば五千エール貰えるしそれも有りかな……って」
「駄目だ、絶対に」
「え?」
「……いや、済まなかった。良い情報を有り難う」
銀貨を数枚置いて、喫茶店を後にするアヤト。
情報は揃った。
後は『犠牲者』を探すだけだ。