1.最果ての街エーヴィルタウン(7)
- 2019/09/12 17:44
「……ここに来ているなら連絡してくれれば良かったものを」
実況見分をしている最中に、アヤトは誰かに声をかけられた。
その声を聞いて、アヤトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「げ。大佐じゃん。何でここに」
「何でここに……って、ここは私の管轄区だが」
アレス・フィールドクラウ。
ハイダルク国軍東方軍務部のトップを務める彼は、アヤトとは長い付き合いをしている仲である。
「……アヤトくん。無事で良かった」
「ヒカリさんも来ていたんですね」
ヒカリ・ルーゼンベルグ。
アレスの副官を務める彼女もまた、東方軍務部の人間である。
「……まったく、こんな魔術師を放置していたとは。我々も未だ未だ目が悪いようだな」
「ただの魔術師じゃねえぜ、こいつは」
「……何だと?」
「知恵の木の実を作り出していた。どういうやり方で作り出したのかは知らねえけれど、それについても問い詰めなくちゃいけないところだと思う。それに……」
「彼女も、だな」
アレスはそちらに目をやる。
見ると軍の人間にずっと質問攻めにされている白いローブの少女が座っていた。
「彼女は……いったい何者なんだ? 全然分からないぞ。魔術師という風にも見えないし、どうして彼女を管理していたのかがさっぱり分からない」
「管理、か……」
管理。
そう、彼は言った。
正確に言えば監禁と言った方が近いのかもしれないが、何せ本人の目の前での言動だ。言動には注意せねばならない。
「……名前は?」
アヤトは彼女に近づき、訊ねる。
「『Grimoire Bibliotheque 666』」
「……長い。それに、それは本名じゃないだろ」
「いいや。これ以外の名前を私は知らない……。私は間違いなく『Grimoire Bibliotheque 666』。それ以上でも、それ以下でもない」
「こいつは困ったね……」
「とにかく、二人とも、一度東方軍務部に来てはどうかね?」
アレスの提案を聞いて、首を傾げるアヤト。
「東方軍務部……っていうと、マスドライバーに? いったいどうして?」
「どうしても何も、彼女を保護せねばならない。彼女がどういう存在であれ、だ」
「そりゃ、そうかもしれないけれど……」
「それに、君とも一度話をしたかったんだ。世界を旅してどうだった? この国以外にも立ち寄ってきたんだろう?」
「……本題はそっちか」
「はてさて、どうだろうね?」
そう言って、アレスは車に乗り込んでしまった。
どうするべきか――答えはもはや見えていることだった。
マスドライバー。
東方軍務部のある、ハイダルク東の繁華街。
そこに二人は向かうことになるのだった。