1.最果ての街エーヴィルタウン(5)
- 2019/09/11 12:08
犠牲者は見つかった。全員が名乗り出ることはなかったが、その殆どが記憶を失っていた。しかし、現実にあまり影響の出ないようになっている。それは恐らくフェルトの配慮だろう。いきなり自分の家から完全に記憶を失った存在が現れればそれはそれで問題だからだ。
ともなれば、彼は向かわなくてはならなかった。
目的地は、フェルト・アールカンバーの屋敷。
フェルト・アールカンバーの屋敷に着くと、再びフェルトが出迎えてくれた。
「これはこれは、アヤト殿。どうなさいましたか?」
「お前が持っている知恵の木の実について聞きたいことがある」
眉を顰める様子を見せたが、フェルトはそれを一笑に付した。
「……何でしょう?」
「知恵の木の実は地球の記憶エネルギーを使って、それを糧として魔術を放つことが出来る、だったな?」
「ええ、そうですね。それはあなたも知っていることではないですか。いえ、あなただけではない。国家魔術師なら常識といえる内容とは思えませんか?」
「だが、知恵の木の実は実際に製造することが出来る、としたら?」
「……ほう?」
「知恵の木の実は人間の記憶エネルギーを吸い取ることで生み出すことが出来る。それをあなたは知っている。そして、あなたはただの人間にそれを適用した。……とすれば?」
「笑止」
フェルトは一言そう言った。
「仮にそうだとしても、私にメリットがないではありませんか。寧ろ、デメリットしかない。そんな状態を実際に私がやってのけるとでも? 有り得ない。そんな無価値なこと、やる訳がない」
「いいや、やっているんだよ。あんたは現に。……あんた、僕が帰ってから一人の少女がここに出向いていたことを知っているか?」
「いいえ」
「彼女は兄の記憶を奪われた、と言っていたよ。それもあんたの家にやって来てから、だ。おかしいとは思わないか? 因果関係の一つや二つ、見つかってもおかしくはないか?」
「……全くもって愚問ですね。そんなこと有り得るはずが」
「彼女だけじゃない。もっと沢山の人間が記憶消失に苦しんでいた。それも全て、お前が出した『アルバイト』が目的だ」
「……ああ、あのアルバイトですか」
「もう逃げも隠れも出来ないぞ、フェルト・アールカンバー。お前は知恵の木の実を濫造し、その代償に人間の記憶エネルギーを流用した。これは立派な犯罪だ。東方軍務部にお前の身柄を提出しなくてはならない。いや、既に連絡を済ませてある。……あと数時間もすれば、東方軍務部の人間がやって来るだろうな」
「黙れ……」
「あ?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ――!」
刹那、彼から謎のオーラが放たれた。
否、オーラというよりかは、魔力の波動と言った方が良いだろう。