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2019年09月16日の記事は以下のとおりです。

2.闇夜の錬金術師(5)

  • 2019/09/16 22:42

 救護室。そのベッドの一つを占有しているのは、白いローブに身を包んだシスターめいた格好をした少女だった。
 少女はテーブルの上に置かれている食事を取っていた。その様子からして体調はある程度回復してきたように見える。

「……元気そうで何よりだよ、ええと」
「ビブリオテーク。そう呼んで欲しいって言ったのに忘れたのかな?」
「……ああ、そうだった。そうだった気がするよ。不味いなあ、最近は物忘れが何とも激しいような気がする。何故だろうね?」
「知らねえよ。ってか、軍で管理している『超重要機密』ぐらいちゃんと記憶しておけ」

 ビブリオテークは笑みを浮かべて、

「ええと、今日はいったいどういう話にやって来たのでしょうか?」
「……単刀直入に言おう。これ以上、君を軍で預かることは出来ない」
「おい! それっていきなり過ぎやしないか! もっと何か段取りを踏んで話をするとか……」
「しかし、決まりきっていることを先延ばしにするというのも悪い話ではないかね?」
「それは……」

 そうかもしれない。確かにその通りなのかもしれない、のだが。
 言うタイミングというものがあるだろう、とアヤトは考えていた。
 ビブリオテークは慌てる様子を見せることなく、アレスの顔を眺めて、

「……いつかそうなる時が来るだろう、というのは分かっていました。神に仕える者として、そういう時間が訪れることは仕方がないことだと分かっていました」
「そう言って貰えるとこちらの苦労が少なくて済む」
「……私はどうすれば良いのでしょうか? 一人、シスターが彷徨くというのもどうかと思いますけれど」
「そこについては、彼に任せるつもりだ」
「……アヤト・リストクライムだ。宜しく頼む」
「彼が担当している仕事が終わり次第、君の身柄を彼に引き渡すつもりだ。それからは、彼の指示に従って行動してくれ」
「……宜しくお願いします。ええと、私の名前は」
「ビブリオテーク。そう呼べば良いのだろう?」
「ええ、そうです。宜しくお願いします」

 そうして。
 二人は固い握手を交わすのだった。


   ※


「……どうだった? 彼女の様子を見て」
「見た感じはただの少女、といった様子だったが」

 アヤトとアレス、それにヒカリは廊下を歩いていた。
 向かう場所は部長室だ。これからコフィン――ミルシュタインの民の錬金術師をどう対処していくべきか、ということについて考えねばならないのだった。

「だろう? しかし、彼女はただの少女ではないのだ。魔法書が――」
「聞いた。魔法書が脳内に大量に保管されている、のだろう。しかし、俄には信じがたいことだがな。魔法書というのは、既にこの世界から紛失したものではなかったのか?」
「魔法というのはあくまでも魔術の一分野だ。それに今でも魔法を使っている魔法師は居る。だから別段変な話でもないと思うのだが? 魔術師と魔法師の違いなんて、それこそ見分けがつかないものと言えばそれまでだが」

 魔法。
 単刀直入に言えば、魔術を簡単にしたシステムのことで、魔術の中の一分野といった仕組みになっている。その魔法は、魔術にとっては難しいシステムであることから、あまり使っている人間――その人間のことを魔法師と呼ぶ――は居ない。
 魔法師が求めているのは、魔法書と呼ばれる書物だ。そこには魔法の様々な内容が書かれており、編纂されているのだという。ガラムドが自ら書いた魔法書も存在しており、そこには滅びの魔法と呼ばれる強力な魔法も書かれていた、と言われている。

「……その魔法書? を集めようとする人間は居るのか?」
「居るだろうな。どうしてフェルト・アールカンバーが魔法書図書館を所有していたのかは定かではないが……、魔術と魔法の融合でも考えていたのだろうか? 或いは、魔法の良いところを魔術に吸収しようとしていた、とか?」
「当の本人に聞けば良いじゃないか。殺してないんだし、未だ留置所に居るんだろ?」
「それが目を覚まさないのだよ……。よっぽど君に倒されたことがショックなのかもしれない」
「まさか!」
「いや、案外そうかもしれないよ……。君みたいに若い国家魔術師が居る訳でもない。それを考えれば、国家魔術師のプライドが傷つくことになるだろうよ。同じ国家魔術師同士の戦いであったにせよ」
「そんなものかねえ?」
「そんなものだ。……さて、部長室に着いたことだし、これからのことを話し合おうじゃないか。その錬金術師をどうするかも考えながら、これからのことを話し合おう」

 部長室に入ると、手前にあるソファに腰掛けるアヤト。
 対面したソファに腰掛けるアレス。ヒカリはコーヒーを淹れるために立ったまま、コーヒーマシンに向かっていた。

「さて、これからどうするかということについてだが……、先ず君の意見を問いたい。どうすれば良いと思う?」
「どうすれば良いか、と言われてもな……。やはり軍を動かした方が早いんじゃないか?」
「難民キャンプを軍で襲え、と? それこそ軍の威信に関わってしまう。私が首になってしまうよ」
「街の民が被害に遭っている以上、難民キャンプごと潰すことは問題じゃないんじゃないか?」
「そう言われてもねえ……」
「コーヒーが入りました」

 二人の目の前に、コーヒーを置くヒカリ。
 そしてアレスの隣に腰掛けると、ヒカリは声を上げた。

「一つ、提案があるのですが」

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