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2019年09月11日の記事は以下のとおりです。

1.最果ての街エーヴィルタウン(6)

  • 2019/09/11 18:37

「ちっ!」
 足で円を描いたアヤトは、そのまま袋の中から何かを取りだし、それをばらまいていく。
 それはただの紙片のようだった。しかし、紙片には様々な情報が描かれているようだった。
 紙片が落下する。それは適当に見えて実のところある位置に正確に落下しているようだった。
 ガキン、ガキン! と。
 生み出されたものは、シールドだった。そのシールドが魔力の波動を受け止めて、流した。
「……『携帯型魔術』ですか。流石ですね、噂に聞いた通りの力だ」
「へへん。伊達に、国家魔術師を名乗っていないモノでね!」
「ならば、これはどうでしょうか!?」
 知恵の木の実を口に咥えたまま、両手を合わせる。
 そしてそのままそれを地面にぶつけると、地面から水が湧き出してきた。
「……どういう構造をしているんだよ、そりゃあ!!」
 しかし、シールドはそう簡単に崩れるようには出来ていない。
 彼が作り出したシールドが完璧に守り抜いていた。
「……簡単なことです。この地にやって来た魔術師の記憶をエネルギーにしただけのこと! 確かその魔術師は水の魔術が得意だったと聞いています。ですから、私が思えば、思うように水が生まれていく!」
 部屋が水に沈んでいく。
 しかしながら、彼の四方を囲んだシールドはその状況ですら守り抜いていた。
 だが、それにも限界はあった。
「……このままじゃ、不味い……」
 ぽつり、と彼は呟いた。
 そう。酸素の問題だ。仮にこの水を抜くために別の魔術を放つとしよう。しかしながら、その間に一瞬の隙が生まれる。その隙は見せてはいけない、そう思っていたのだ。
 だから彼には今一瞬の隙も生み出す猶予はない。
 どうしても彼はこの戦いを逃れなくてはならない。そして、知恵の木の実を手に入れなくてはならなかった。
 知恵の木の実を手に入れて――弟を取り戻す。そのためには――。
「……わわっ! 水が大量なんだよーっ!?」
 声が聞こえた。
「!?」
 フェルトはそちらを向いた。
「今だ!」
 アヤトはフェルトの魔術の水に直接手を触れた。
 解析。
 魔術の要素には、解析と構成、そして分解の三つの要素が存在する。解析と構成は一つの魔術を生み出すだけの要素になるが、分解ともなると話は格段に難しくなる。
 魔術。それは、魔術から生み出されたものを分解し、解析し、理解し、それを改めて構成し直すことが出来る。
 それが出来る魔術師は限られており、だからこそ、彼らを国家魔術師と呼ぶ訳だが――。
「しまった、魔術を解析されてしまったか!?」
「気づいたかもしれないが、もう遅い!!」
 逆流。
 フェルトが魔術に利用したエネルギーを『逆転』させることで、そのエネルギーをフェルトに向けさせること。
 それを行うことで何が起こるか? もはや、言うまでもないことだった。
 刹那、フェルトはその濁流に呑み込まれ、意識を失った。

 

1.最果ての街エーヴィルタウン(5)

  • 2019/09/11 12:08

 犠牲者は見つかった。全員が名乗り出ることはなかったが、その殆どが記憶を失っていた。しかし、現実にあまり影響の出ないようになっている。それは恐らくフェルトの配慮だろう。いきなり自分の家から完全に記憶を失った存在が現れればそれはそれで問題だからだ。
 ともなれば、彼は向かわなくてはならなかった。
 目的地は、フェルト・アールカンバーの屋敷。
 フェルト・アールカンバーの屋敷に着くと、再びフェルトが出迎えてくれた。
「これはこれは、アヤト殿。どうなさいましたか?」
「お前が持っている知恵の木の実について聞きたいことがある」
 眉を顰める様子を見せたが、フェルトはそれを一笑に付した。
「……何でしょう?」
「知恵の木の実は地球の記憶エネルギーを使って、それを糧として魔術を放つことが出来る、だったな?」
「ええ、そうですね。それはあなたも知っていることではないですか。いえ、あなただけではない。国家魔術師なら常識といえる内容とは思えませんか?」
「だが、知恵の木の実は実際に製造することが出来る、としたら?」
「……ほう?」
「知恵の木の実は人間の記憶エネルギーを吸い取ることで生み出すことが出来る。それをあなたは知っている。そして、あなたはただの人間にそれを適用した。……とすれば?」
「笑止」
 フェルトは一言そう言った。
「仮にそうだとしても、私にメリットがないではありませんか。寧ろ、デメリットしかない。そんな状態を実際に私がやってのけるとでも? 有り得ない。そんな無価値なこと、やる訳がない」
「いいや、やっているんだよ。あんたは現に。……あんた、僕が帰ってから一人の少女がここに出向いていたことを知っているか?」
「いいえ」
「彼女は兄の記憶を奪われた、と言っていたよ。それもあんたの家にやって来てから、だ。おかしいとは思わないか? 因果関係の一つや二つ、見つかってもおかしくはないか?」
「……全くもって愚問ですね。そんなこと有り得るはずが」
「彼女だけじゃない。もっと沢山の人間が記憶消失に苦しんでいた。それも全て、お前が出した『アルバイト』が目的だ」
「……ああ、あのアルバイトですか」
「もう逃げも隠れも出来ないぞ、フェルト・アールカンバー。お前は知恵の木の実を濫造し、その代償に人間の記憶エネルギーを流用した。これは立派な犯罪だ。東方軍務部にお前の身柄を提出しなくてはならない。いや、既に連絡を済ませてある。……あと数時間もすれば、東方軍務部の人間がやって来るだろうな」
「黙れ……」
「あ?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ――!」
 刹那、彼から謎のオーラが放たれた。
 否、オーラというよりかは、魔力の波動と言った方が良いだろう。
 

1.最果ての街エーヴィルタウン(4)

  • 2019/09/11 11:53

 簡単に言えば、だ。
 フェルトが人々の記憶をいかにして奪ったのか、は問題ではない。
 問題として問われるのは、フェルトが人々から記憶を奪ったのかどうか、だ。
 その証拠を集めるのははっきり言って簡単なことではないだろう。
 しかし、彼には頑張らなくてはならない理由があった。
 知恵の木の実。
 それを手に入れることが出来れば、もしかしたら弟を取り戻すことが出来るかもしれない。
 そう思えば、心が躍るというものだ。悪者退治に出る、というよりかは自分の望みを叶えるために動いている、と言えば正しいかもしれない。少し考えれば辿り着くはずの結論ですら見誤ることになるのだから。
 お気軽に物事を解決することなんて出来やしない。それは誰にだって言えることだと思う。
 しかしながら、それを受け入れる人間なんて実際の処いやしないのではないだろうか?
「……先ずは証拠を見つけなくてはいけない。しかしながら、そう簡単に証拠を開けっぴろげにしておくとも思えないし……」
「あら。どうかしたのかしら、お客さん?」
 そういう訳で彼がやって来たのは街の喫茶店だった。
 喫茶店と言ってもカウンターのみの店舗で、そのカウンターも外に出ている。雨が降ったらどうなるんだろうか、という構造の喫茶店だった。
 そんな場所で提供されるコーヒーも大した味ではないだろう、なんてことを思いながら彼はコーヒーを注文していた。ここでは女性が一人で切り盛りしているようで、いつも彼女は注文に追われているようだった。メニューが多いことも理由の一つだろう。近所に食事処が見つからないこともあり、軽食の類いも取り揃えているように見える。
「……いや、ちょっと捜し物をしていてな……」
 彼はコーヒーを受け取り、一口啜る。
 案の定というか、想定内というか、その味はまずかった。
 泥水を啜っているような味――というのは言い過ぎだが、コーヒーを水で薄めているような感覚。それを味わっていて、本場のコーヒーを味わったらきっと頭に電撃が流れるに違いない。そんなことを思いながら、彼は喫茶店の主に問いかけていた。
「少しでも良い。この街の領主、フェルトが……何らかの実験を持ちかけてきたことはないか?」
「……はあ、実験、ですか?」
「そうだ。実験だ。どんな内容だって良い。例えば、アルバイトの告知だって良いんだ」
「アルバイトの告知なら……ほら、そこに」
 彼女は壁を指さす。
 するとそこには一枚のチラシが貼られていた。
 そこにはこう書かれていた。
『一日過ごすだけで五千エール! 連絡はフェルト・アールカンバーまで』
「……胡散臭いな」
「そう思うかもしれないですけれどね? 五千エールなんて、私の数日分の稼ぎに値するんですよ。たまに思うんですよ。人が来ない日はフェルトさんの家に行けば五千エール貰えるしそれも有りかな……って」
「駄目だ、絶対に」
「え?」
「……いや、済まなかった。良い情報を有り難う」
 銀貨を数枚置いて、喫茶店を後にするアヤト。
 情報は揃った。
 後は『犠牲者』を探すだけだ。
 

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